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無伴奏(1) : メイキングセンス。by 中山慶太

無伴奏(1)

2012-01-29 | 視聴覚室

 (C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

レオナルドの「晩餐」を観たのは、修復が終わるすこし前のことだった。
タイミングとして、それが良かったのかどうか、なんともいえない。今のような厳しい入場制限がない頃で、僕みたいに気まぐれな人間がぶらりと立ち寄っても、好きなだけ絵を眺めて過ごすことができたのだから、まあ佳い時代と言うべきかもしれない。

ただしそうやって心ゆくまで眺めた絵は、なんとも中途半端な状態だった。修復は画面全体を升目に区切って行われていたのだが、それが済んだところと未着手の部分が入り交じって、色調だけでなく絵の立体感がおかしくなっていたのだ。
その「使用前と使用後」ならぬ「修復前と修復後」を同時に見比べて面白く感じたのは、絵に自然な奥行き感があるのは前者だということ。そちらは後世の画家がレオナルドの真筆の上に絵の具を塗り重ね、そこに数百年分の汚れも重なることで、ある種の重層感が醸し出されていた。

 (C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

これを写真に置き換えれば、修復後はデジタル的で、修復前はフィルム的と表現することもできる。果たして芸術作品としての価値はどちらにあるのか。ほとんどのひとは真筆を推すだろうけれど、加筆版が永遠に失われた今となっては、そういう議論も空しい。

修復中の壁画を観てもうひとつ驚いたのは、その真筆の多くの部分が欠損して、灰色の壁面が露出していたこと。この欠損はレオナルドが絵を完成する前から始まっていたらしく、教会の食堂という湿気の多い環境を考慮せず、湿度に弱いテンペラ技法で描いたことが致命的と言われている。
とはいえ、彼がより一般的なフレスコ技法を用いていたら、絵もまったく違うものになっていたはず。ひょっとすると未完のまま放棄された可能性もある。レオナルドは筆を置かずに立ち去る「描き逃げ」の常習犯だったのだ。

 (C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

その修復後の「晩餐」を鑑賞するには、ミラノまで赴くのがいちばんの方法ではあるけれど、近年に出版された美術書を眺めてもおおよそのイメージはつかめる。ドイツのタッシェン社の書籍「Leonardo Da Vinci: The Complete Paintings and Drawings」などは、価格も手頃で内容も充実しているから、手元に置く価値は充分にある。

レオナルドがこの絵を完成したとき、それは史上まれに見る「完全性を備えた芸術作品」であったはずだが、欠損の多い現状では、絵にまた別の価値が生まれているように思えてならない。それは芸術に永遠や完全性を求めることが、どれほど空しい行為かを教えてくれるし、また欠損部分を頭のなかで補うことで、鑑賞者それぞれにある種の自由を与えてくれるからである。

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