docomo Pro Series L-03C(3)

2011-02-15 | 東京レトロフォーカス別室

 (C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

「…ところで、LGってカメラつくってましたっけ?」
顔を心持ちこちらに近づけ、声を潜めてこう尋ねてきたのは、他ならぬドコモショップの店員さん。
まあ通話音量を下げたくなる理由は分かる。カウンターに置かれたL-03Cは、どう眺めてもカメラだけど、それをつくったメーカーのブランドが、カメラにくっついているのは観たことがない。僕のような発売直後の指名買いはともかく、普通のお客さんに薦めちゃってイイものか、いまいち確証がつかめない。たぶんそんなところだろう。

カメラと無関係っぽい会社が、カメラっぽい製品をつくる。そういう事情について、パソコンやモバイル関連の小物(いわゆる「ガジェット」)に詳しいひとなら、べつだん違和感がないと思う。でも僕の記事を読んでくださる方は、写真とその道具の愛好家が多いはずなので、ちょっぴり説明が必要かもしれない。

docomo Pro Series L-03Cは、LGエレクトロニクスが製造し、NTTドコモの販売ネットワークを通じて日本市場に供給される携帯電話端末である。LGは韓国の家電・情報通信機器メーカーで、あちらではサムスンに次ぐ二番手という。日本では「LG電子」の旧社名で記憶するひとも多い。
LGの製品は幅広いジャンルをカバーし、さいきんでは薄型TVや携帯端末、パソコンなどIT系の製品を得意としている。このあたりは急成長するアジアン・エレクトロニクスの文脈どおりだが、デジカメに積極的なサムスンに対し、LGには(スチル撮影に特化した)カメラを手がけた経験がないようだ。

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 /  13.1mm F4.6 1/190sec. ISO400  / (C)  Keita NAKAYAMA

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 / 13.1mm F4.6 1/190sec. ISO400 / (C) Keita NAKAYAMA

話はすこし横道に逸れるけれど、今日びでは自分が買った製品のこと、製造した会社のことなど、情報として手に入れるのは雑作もない。ただし本当に知りたいこととなると事情はまた別で、あちこちに散らばった情報を拾い集めても、ちゃんと形にならないというか、重要なピースが欠けている。僕のような写真機好きにとっては、メーカーの財務状況や組織図より、レンズの構成図とか「どこまで寄れるか」という数字の方が、ずっと価値が高いのだが。

L-03Cにしても、WEB上のカタログや取説に目を通しても、その出自を示す手がかりはほとんど無い。そこで公式非公式を問わず、断片的な情報をつなぎあわせると、この製品のカメラ部分は日本の三洋電機製。そのモジュールにはペンタックスが設計した光学三倍ズームが搭載される。
内蔵センサーは1/2.3インチCCDで、レンズをフルサイズ換算するための係数は約5.55。つまり6.3-18.9ミリという半端な焦点距離は、フルサイズ換算35-105ミリというスペックから割り出されたもの。といっても、センサーから切り出す最大サイズは、フィルムカメラの縦横比(いわゆるライカ判)とは違う縦横比率のため、画角は等価ではなく、やや望遠寄りとなる。

レンズ構成は5群6枚。倍率と焦点レンジに照らせばシンプルな構成で、設計の主眼は小型化に置かれているようだ。光学性能は「ほどほど」というところだが、実写の印象はなかなか良く、これはPENTAXというブランドを無理なく重ねられるレンズである。
最短撮影距離は実測で広角端=20センチ、望遠端=45センチ前後。マクロモードならそれぞれその半分くらいまで寄れる。ちなみに後から入手した分厚い取説には「レンズ先端から」、つまりワーキングディスタンスが記されており、それは実測とはかなり違う数値だった。コントラストAFの特性上、近接撮影の限界値を割り出すのはむつかしいため、この件はもう少し検証して改めて書こう。

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 / 18.9mm F5.6 1/140sec. ISO400  / (C)  Keita NAKAYAMA

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 / 18.9mm F5.6 1/140sec. ISO400 / (C) Keita NAKAYAMA

デジタルカメラの画質を決める画像処理エンジンは、どこが手がけたのか不明。そこで勝手な想像をめぐらせば、おそらくこの部分にLGの技術が入っている。基本的な仕様と絵づくりを三洋がまとめ、最終的な味付けはLG側で行ったのではないか。社内に液晶テレビなどの開発部門があれば、そのリソースを使わない手は無い。というか、「写真画質のチューニング」は、企業としてもぜひ蓄積したいノウハウであるはずだ。

またこのカメラ部分を含む全体の機能と外装デザインについては、ドコモの意見が相当に反映されていると見ていい。もともと携帯電話などのモバイル機器では、企画段階から通信キャリアが深くかかわるため、メーカーの個性が色濃く現れた製品は稀である。つくり手の意思が100%形になった製品はiPhoneくらいだろう。
例のリコーGR Digitalに近似したデザインにしても、おそらくメーカーからの提案に入っていたのだろうが、それを承認したのはドコモ。つまり意匠面での剽窃にかんする是非は、メーカーではなくキャリアが問われるべきなのだ。
(この項続く)

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▲photo01:L-03Cには三脚穴がない。底面にそれを設けるスペースはある(ように見える)し、セルフタイマーの備えもあるので、非装備の理由は不明。たぶん、
「三脚に固定したら電話に出られないゾ」
「その場合はですね、ハンズフリーで」
「三脚の上のカメラと大声で話していたら変じゃないか?」
というような議論が、ドコモの会議室で繰り広げられたのだろう。想像だけど。
そんなわけで、本機を三脚に載せるため、市販の汎用ホルダーを調達した。ご覧の通りの単純なクランプで、着信時もすぐに外せる。ただしL-03Cでは固定強度がいまひとつ。「左右逆付け」ではトップカバー端のマナーモードボタンが押され、レリーズに反応しなくなる。ズームホイールに干渉する部分を切断するのが良さそうだ。

▲photo02:デジタルではやたらに枚数を撮るひともいるが、僕はあまりカット数を増やさない。おなじ画面構成では、おおむね4、5カットほど。この4枚のレリーズ間隔は2秒から5秒で、全体として20秒ほどという撮影時間は、それしか集中力が続かないのか、もっと表情を待つ根気がないのか。
カメラ側のAFを解除し、ピントは顔よりも手前に「置いて」撮影。MFモードの本来の使い道からは外れるが、トイカメラ風の雰囲気写真を撮りたい場合には有効だ。焦点距離はフルサイズ換算約72ミリ。

▲photo03:望遠端で。地平線に沈む直前の光を使って撮影。「髪の毛一本のセパレーション」を売りにする機種とは違う、自然で軟らかい描写。こういう絵で撮れるデジタルを待っていたのは僕だけだろうか。

Special thanks to Mayumi.

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