Olympus PEN E-P1 (4)
別冊CG「OLYMPUS PEN」の仕事で、高島鎮雄さんからお話を伺う機会をいただいた。先代のペンにまつわる逸話はとても面白く、また高島さんのお手前になる「歴代ペンの樹」を拝見できたのも貴重な体験だった。
美品ぞろいのそのコレクションの中に、一台の使い込まれたペンがあった。1960年に発売されたシリーズ第二弾の「ペンS」だ。それは当時高島さんが新品で買い求め、その後ずっと手元に置かれているカメラなのだそうだ。
先代のペン、についてはここにあらためて書くまでもない。ちょうど半世紀前に始まったハーフサイズカメラの系列で、基本形はビューファインダー付きのコンパクト機。後からこれに一眼レフタイプが加わった。シリーズの設計は天才肌のエンジニアとして知られる米谷美久(まいたに・よしひさ)さんである。
フィルム時代のペンは30年にわたって造り続けられ、その生産台数は累計1700万台を超えるという。今の日本でひとりに1台ずつ配ったとして、国民の8人に1人が持つ計算になる。単一ブランド機種の量産規模としては、たぶん空前絶後だろう。
そういう名跡(みょうせき)が復活するという話が聞こえてきたのが、この初夏のこと。色めき立ったのはもちろん先代を知る年齢層、つまり僕くらいの世代だ。ペンの生産が途絶えて既に20年、しかもモデル末期には「カタログに残しておくことに意義がある」みたいな存在だったから、若いひとたちの反応が鈍いのは当然である。このカメラの仕事でお会いしたエンジニアからは「フィルム時代のペンは今の若者にも人気がある」という声も聞かれたけれど、それはニッチの中のニッチというべき話。僕だって自分の古カメラ趣味が「どマイノリティ」だという自覚はある。
先代をハッキリ覚えていなくても、名前と顔つきはなんとなく知っている。それが名跡の強みだとしたら、今回の復活劇はその強みをフルに活かし、ビジネスの成功につなげた鮮やかな例だろう。あのペンFを彷彿とさせるトップカバーのデザイン。ハーフサイズというアイコンを、イメージャの新規格に重ねたコンセプト。そしてデジタル時代のペンを印象づけるソリッドな広告表現。先代に入れ込んだ贔屓筋なら、ご祝儀片手に襲名披露に駆けつけたくなったはずだし、そこまでコアなファンでなくても、会社帰りに先行配布のカタログゲット、という気分にさせられただろう。この夏のペンの復活は、そんな大向こうを唸らせる仕掛けと、華やかなイベント感に満ちあふれていた。
だが、そのデザインとコンセプトが「あまりにもペン」であるからこそ、そこに過剰な意味性を求めてしまう人間もいる。そう、この僕のように。
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▲photo:E-P1は画面の縦横比を選べる「マルチアスペクト機能」を積んでいる。カタログや取説で面白いのは「4:3」「16:9」などに混じって「6:6」の表記があること。もちろん中判でお馴染みのスクエアフォーマットなのだが、パナソニックのように「1:1」と約数で書かないところがカメラメーカーのこだわりか。使用レンズはマクロエルマー65mm(+ヴィゾフレックス2)、E-P1本体とヴィゾはマウントアダプターで結合。
Special thanks to MAYUMI.
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