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夕暮れの18%(1) : メイキングセンス。by 中山慶太

夕暮れの18%(1)

2012-04-15 | 東京レトロフォーカス別室

Nikon FE2 / Mir-24N 35mm F2 /  FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / Mir-24N 35mm F2 / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C) Keita NAKAYAMA

すれ違いざまにつかもうとすると、そいつには尻尾が無かった。
ああ、チャンスの話だね。よく知っている。だから奴をつかまえるには、尻尾ではなく前髪を狙えという。でもちょっと待てよ、さいしょに尻尾を狙うってことは、人間じゃないんだろう? だったら前髪って、おかしくないか?
そんな屁理屈をこねている人間に、出会いのチャンスは一生めぐってこない。

じっさい、ほんのわずかな時間差で機会を逃すなんて、よくあることだ。分かりやすい例を見るために、1876年2月14日のワシントンへ出向いてみよう。このおなじ日に二人の男が役所を訪れ、ある書類を出そうとしていた。

月曜の朝の窓口に、真っ先に現れたのは髭面の男。彼は受付の女性の事務的な問いかけに短く答えると、そさくさとカバンを開いた。口下手とかせっかちではなく、言葉に残るスコットランド訛りを隠そうとしたのだ。この国に移住して数年、彼は”th”の発音がいまだに苦手だった。

彼が取り出した書類はのちのちまで知られるところだが、カバンの色までは分からない。でも髭と髪に合わせて「黒」だった可能性もある。傍らに置いた外套もたぶんおなじ色の、スコティッシュ・ウールの生地で仕立てた分厚いものだったろう。
ワシントンの2月は寒さが厳しく、川べりに植えられた桜の樹も、まだ蕾みを硬く閉ざしている。

その男が立ち去って二時間ほど後に、もうひとりの男が窓口に立つ。今度の男はいくぶん質素な身なりで、言葉にも目立つ訛りはなかったけれど、やはり髭面で、差し出した書類も前の男とよく似た内容だった。
カバンの色は何色かって? もし髪とおなじなら、濃い赤褐色だったはずだ。あるいは一族の姓に引っ掛けて、無彩色の灰色だったろうか?

Nikon FE2 / Mir-24N 35mm F2 /  FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / Mir-24N 35mm F2 / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C) Keita NAKAYAMA

二人の髭男がわずかな時間差で提出したのは、ほとんどおなじ発明にかんする特許申請の書類だった。その発明品とは、離れた場所でも会話ができる機械。つまり電話である。
そののち多少の紆余曲折はあるのだが、ワシントンの特許局は窓口に並んだ順序を尊重し、黒髭の男に権利を与えた。結果、彼が興す会社は二十世紀の科学技術史に、いや世界の歴史と文化に強い影響を与えていくことになる。
スコットランド生まれの学者アレクサンダー・グレアム・ベルは、わずか二時間ほど早く行動しただけで、競合者を制しただけでなく、世界を変える権利を手にしたのである。

では競争に負けた男は、いったいどうなったのか。あいにくとここで書くのは、その後日談ではなく写真の話だ。でもそれは、彼の一族の姓と、彼が窓口で開いたかもしれないカバンの色には、深い関係がある。
ちなみに二人目の男、オハイオ州の発明家イライシャ・グレイの髪の色を「濃い赤褐色」と書いたのは、彼の肖像写真の反射の具合でそう思えたためで、事実にもとづいてのこととは違う。

カラー写真の発明と実用化まで、まだ半世紀以上も残す時代の話ではあるけれど、写真の露出が「グレースケール」をもとに決められるのは、そう遠い先のことではなかった。

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▲photo1:日没前の堤防で。明暗差が刻一刻と狭くなる時間帯だが、まだフィルムの記録幅の方が広いため後処理の余裕が残っている。わずかに残る色カブリはフィルム上に記録されたもので、後から加えているわけではない。
絞りはF2.8。ブレとの兼ね合いで解放から1段分だけ絞ったが、背景をきちんと見せるならもう少し絞るべきだろう。ISO400の感度が「足りない」のではなく、これは時間の判断を誤った撮影者の問題。やはり早めの行動が成功の秘訣? いや、もし早く到着してもこの色が出る時刻まで待って撮ったに違いない。

▲photo2:上の画像の処理を変えて暖色系のカブリを抜いたもの。夕暮れの空気感が後退した分、色のヌケが良くなって画面全体が引き締まって見える。リバーサル的というかデジタル的というか、こういうクールなコントラスト感を好むひとも多いと思う。ではどちらが「見た目に忠実か」といえば、どっちもまったく忠実ではないはずだ。

Special Thanks to Yuko MIYASAKI.

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