Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 520

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 535

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 542

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 578

Deprecated: Function set_magic_quotes_runtime() is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 18
Former Super-Wide Angle : メイキングセンス。by 中山慶太

Former Super-Wide Angle

2011-07-24 | 東京レトロフォーカス別室

Nikon FE2 / MC Mir-20N 20mmF3.5 / Superia X-Tra 400 / (C) keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / MC Mir-20N 20mmF3.5 / Superia X-Tra 400 / (C) keita NAKAYAMA

機材棚を整理していたら、懐かしいレンズが出てきた。
旧ソ連邦ウクライナ製ミール20N。巨大な前玉が特徴的な、マッシュルームみたいな広角レンズだ。

ミールは旧ソ連が開発した、一眼レフ用の広角レンズシリーズである。レンジファインダー用レンズが戦前ドイツ・カールツァイス社の設計を基本にしているのに対し、こちらはソ連の独自設計という。
ソ連のレンズはおなじ品番でも複数の工場で生産されることが多く、ミール20もモスクワ近郊のKMZ社製と、ウクライナ・アーセナル社製が存在する。末尾にMが付くのはKMZ製M42マウント版、N(キリル表記ではH)が付くのはアーセナル製のキエフマウント版だ。

両者ともに前期後期で違いがあるが、特に後者のキエフ用はマウントそのものが違う。前期型は鏡胴に絞りリングを持たない独自マウント(キエフ10/15用)、後期型はニコンF互換マウント(キエフ17以降用)となる。
量産は60年代初頭からはじまって、ウクライナでは80年代後半で終了し、モスクワでは連邦崩壊後もしばらく継続された。マウント以外にも外観やコーティングにバリエーションがあるが、レンズの光学系そのものはほとんど変わっていないようだ。

その光学設計は、古典的なレトロフォーカスタイプ。これはフランスのアンジェニュー社が発案したコンセプトで、鏡胴内部に置かれたエレメント群が、望遠レンズのそれを前後逆にしたような配列になっている。
なぜそうしたのかといえば、伝統的な設計手法でレンズをつくると、焦点距離が短くなるほどレンズはフィルム面に接近する。単純な暗箱カメラならそれで問題はないが、一眼レフではレンズとミラーが衝突してしまう。それを避けるためにはレンズ全体を前に出すしかない。そこで考案されたのが逆望遠の配列、つまりレトロフォーカス型というわけだ。

Nikon FE2 / MC Mir-20N 20mmF3.5 / Superia X-Tra 400 / (C) keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / MC Mir-20N 20mmF3.5 / Superia X-Tra 400 / (C) keita NAKAYAMA

ミール20のレンズ構成は9群8枚。構成図を観ると、ほぼ同時代で同スペックの東独製レンズ、フレクトゴン20ミリF2.8によく似ている。特に前群の三枚はまったくおなじコンセプトで、大口径の凸レンズの後ろにメニスカス凹レンズを置く設計だ。この前群はバックフォーカスの確保と、収差(コマ収差と歪曲収差)補正の役割を担っている。
両者の後群もレンズ形状に差異があるものの、それは量産性の違い程度ではないか。「どちらの設計がオリジナルか」は諸説あるところだが、フレクトゴンF2.8には原型のF4版が存在し、そちらの後群はすべて接合レンズ(うち一群はゾナーばりの三枚接合)という贅沢な設計だった。想像だが、おそらくその発展形を東独とソ連で共有したのだろう。

世界が東西に分かれた冷戦の時代、ミール20が西側諸国の市場に現れることは稀だった。ミールやフレクトゴンに類似した設計のレンズは日本の光学メーカー各社も手がけたが、それらはいわば第一世代のレトロフォーカスである。やがてより洗練された第二世代、つまり小型軽量で高性能なレンズに置き換えられ、忘れ去られる運命にあった。
西側のマッシュルームがカタログから消えたのは、概ね70年代の半ば頃のことである。

それから十数年後、突然に冷戦が終結し、かつて鉄の壁で護られた「赤い星のレンズたち」が、世界のカメラ市場に流出する。それらは例外なく安価で、多くが未使用新品(デッドストック)のまま供給されたこともあり、興味半分、面白半分に手を出す写真機好きも多かった。
かく言う僕自身も、そういう東側カメラやレンズを興味本位で買い漁ったひとりで、ミール20はM42の初期型を除けばすべて使った経験がある。真っ先に興味を惹かれたのは、第一世代レトロフォーカスに特有の巨大な前玉を持つ広角レンズたち。そういうものが新品で買えることが驚きだったし、写りも周辺光量が豊富で、発見の連続だった。

(C) keita NAKAYAMA

(C) keita NAKAYAMA

時計の針は進み、以前にはあれほど市場を賑わせた共産カメラレンズも、今ではごく一部で流通するのみ。競うように買い込んだひとたちも、たぶん死蔵しているのだろう。ネット上で「ミール」の名を見かけることは、めっきり少なくなった。
久しぶりにニコンで使うミールは、長いトンネルを抜けたような写りである。絞りをいっぱいに開くと、レンズが光の強さに戸惑っているようだ。かつて「超」の文字が付けられた広角の、カメラを少し振るだけで目眩がするような広大な視野は健在だけれど、今はそれも便利なズームで気軽に体感できる時代だ。
しばしの眠りから目覚めたミールだが、これはもはや「役目を終えたレンズ」なのだろうか。

いや、写真機材が役目を終えるのは、それで写真が撮れなくなった時か、あるいはそれで撮った写真に誰も振り向かなくなった時のことだ。幸い写真はまだ撮れる。ならばもういちどやってみるのも、悪くないんじゃないか。
ちなみにこのレンズに刻まれた機種名「ミール」とは、ロシア語で「平和」「世界」を意味する語だそうである。

*******************

▲photo01:光あふれる窓辺で。室内は天井も壁も床も白色系、しかも窓は四辺にあるから、レンズには半球のあらゆる方向から強めの光が入射する。今回使ったミール20は多層反射防止膜(MC=マルチコート)が施された後期型で、光軸方向の光源には強いものの斜め方向からの入射光には弱く、こういう条件ではコントラストが低めになる。画角と前玉の形状からハレ切りも事実上不可能に近い。
この性質が欠点となる写真、特に風景などには向いていないレンズだが、人物をハイキーに撮る場合など、現行製品にはない表現もできる。ここではちょっとノスタルジックな光を意識して撮った。
なお順光で絞り込めば現行製品に近い描写になる。

▲photo02:フルサイズの20ミリはもはやありふれた画角。とはいえ撮り方まで簡単になったわけではない。強烈なパース感は写真の求心力につながる反面、コントロールが難しく、また人物写真ではデフォルメ効果にも注意が必要。この写真ではつま先に強烈なデフォルメがかかっている。
無難なまとめ方は歪ませなくない部分(人物の顔など)を画面中心に置くことだが、それでは日の丸写真の連発になる。パースとデフォルメ効果をどう使うか、それが20ミリの生命線だろう。

▲photo03:ニコンFE2に装着したミール20N。旧ソ連製カメラ/レンズのシリアルナンバーは頭の二桁が製造年を表すため、これは83年製。熱帯の小鳥や蝶を思わせるコーティングが美しい。絞り環に刻まれた数値は光学ファインダーから直読できる方式で、これもニコンFマウントの機能を忠実に模したもの。
鏡胴先端のフィルタースレッドはφ77ミリだが、そのままでは突出した前玉に干渉して装着不可。専用のアダプターを介せばφ95ミリ(!)のフィルターが装着できる。レンズキャップも前玉を避ける専用品が用意されている。
なおキエフ/ニコン互換マウントレンズをニコンボディに装着した場合、レンズを外す際は必ず正規方向に回すこと。逆方向に回す(回ってしまう)とボディの絞り連動レバーに接触し、悪くするとレバーを折損する。厳密な互換性が確保されていないためだが、この点はくれぐれも注意されたい。

制作協力:脊山麻理子

Trackback URL

------