ハンドメイドのつくりかた

2010-06-01 | 東京レトロフォーカス別室

(C) Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

土地勘の無い路地を歩いていたら、目の前がふいに開け、まるで空き地のような駐車場に出た。月極だろうけれど、停めてあるクルマは数えるほどだし、地面に線も引かれていない。なぜだか懐かしい空気を感じたので、そこで写真を撮ることにした。
子供の頃に見た風景と違うのは、地面にコンクリートが流してあること。昔のように土がむき出しだと、雨の後とか大変だもんな。面白いのはその仕上げで、升目に区切った表面に細かい筋が刻まれている。といっても手の込んだものではなく、施工時にトンボ(グランド整備などにつかう木製のあれ)で均した跡だろう。
そのパターンを眺めながらカメラを構えたところで、写真の仕上げを思いついた。そうだ、ハケヌリにしよう。

フィルムに記録された画像を、印画紙にどう焼き付けるか。これはプリントテクニックの基本であり、また写真を引き立てる演出として、昔からいろいろな手法が用いられてきた。いちばんシンプルというか原始的なのは、ネガキャリアまたはイーゼルにマスクを挟むやり方。四角い露光面を不定形にしたり、また画面外のフィルムを額縁のよう使って、写真を引き締める手法もポピュラーである。
それとは別に、もっと手が込んだやり方として、露光面を絵画的に描く技法もある。誰がいつ頃はじめたのか不明だが、広く知られたのは写真乳剤(富士フイルムの「アートエマルジョン」)が市販されて以降のこと。この製品は、いわばモノクロ印画紙用の感光材を瓶詰めにしたもの。液状なので、紙だけでなくどんなものにも塗れるし、露光面を自由なカタチで描ける。また塗布する刷毛のタッチを上手く残せば、写真に独特のテイストを与えることもできる。

ウデに覚えのある方なら、撮影後すぐにヨドバシの用品売り場に走るところ。でも知識も経験もない僕は、取り敢えず駅前の百円ショップに向かう。ちゃんと練習してからでないと、高価な薬剤を無駄にするのが目に見えているからだ。
買い込んだのは墨汁と刷毛。〆て税込み210円。絵画用の筆も売られていたけど、別の場所にあったペンキ塗り用の刷毛にする。大きめのパターンを描く場合も毛先のタッチを活かせるし、墨汁もたっぷり含ませることができて扱いやすいはずだ。

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墨汁を使うのはン十年前の書き初め以来だが、これを刷毛に含ませて好きなカタチを描くだけなら、書き初めで赤点を貰った僕でもすぐにできる。と、そう気軽に考えた自分が甘かった。刷毛にしても筆にしても、普段使わない人間のコントロールを容易く許すほど寛容な道具ではない。心にすこしでも迷いがあると、それは結果にダイレクトに(そう、じつにダイレクトに!)現れる。イメージ通りに描くなら、カメラの方がずっとカンタンだ。
あれこれ試し描きしているうちに思い出したのだが、僕はずいぶん前にもおなじことをやっていた。それは広告制作の仕事で、クルマのスピード感を強調するため、写真を筆のタッチを活かしたパターンで切り抜いたのだった。デザイナーと二人で、あのときは事務所に泊まり込みで作業したのだが、デザイナーが何十枚も描くパターンに駄目出しを続けて、一時はかなり険悪な空気が流れていた。

なぜ駄目を出したのかといえば、筆のタッチに勢いが無いから。それでデザイナーが途中でムクレた理由は、自分でやってみてよく分かった。カタチを追えば勢いが無くなり、勢いを出せばカタチが崩れる。僕も若かったので我を通したけれど、今ならパソコンで修正して早めに仕事を切り上げて、とっとと飲みに出かけるだろう。
けっきょく、自前のパターンは当初考えていたのとは違うやり方で上手くいった。歳をとったから妥協したのではなく、たぶんアタマがすこし軟らかくなったのだ。

出来上がったパターンはスキャナで取り込み、パソコンの画像処理ソフトでサイズとコントラストを調整したのち、写真の上にレイヤーで重ねる。色域選択したパターンを背景にコピーし、位置とサイズを微調整して選択部分を反転、白く飛ばしたのが上に貼った完成画像だ。
文字にすると簡単みたいだけど、実際の作業も難しくない。本物の印画紙に特有の質感とか風合いを求めないひとなら、これをプリントアウトするのもいいだろう。

Mockba-5 / Industar-24 105mmF3.5 / Neopan 400 PRESTO / (C) Keita NAKAYAMA

Mockba-5 / Industar-24 105mmF3.5 / Neopan 400 PRESTO / (C) Keita NAKAYAMA

鬼門のパターン描きを除けば、作業そのものは小一時間。当初考えていたよりもずっと手早くできて、ちょっと拍子抜けした。とはいっても、「やってみなくちゃ分からない」ところも多いし、ディテールに凝ろうと思えばいくらでも凝れる。ただしそんな技術を身につけたところで、これは写真表現の本質から離れた、小手先の変化に過ぎないかもしれない。
でも、さいきんのデジタル機で流行りの「アートフィルター」に比べれば、手間ヒマがかかる分だけ充実感がある。作業に手間をかければエライのかって?
うん、だって趣味ってそういうものでしょ。

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▲photo & images:上から順に完成画像、刷毛塗りのパターン、そして加工前の元画像。完成画像はすこし調色している。パターンは塗りムラがあっても大丈夫、取り込み後のコントラスト調整で簡単に消せる。Photoshopなどの「二階調化」を使えば一発でできるけれど、刷毛の細かいタッチを活かすならレベル補正を使う方がいい。また元画像の撮影時には画面の周辺に充分な余裕を持たせること。今回はそこに思い至らず、マスクを置く段になって苦労した。最後の仕上げとして、画面とのバランスを見ながら余白の面積を決める。これが意外に重要なのだ。

Special thanks to Mayumi.

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