Konica Autoreflex T3(5)
真夜中に、デスクの上のT3を眺める。昔のカメラはデカかった、と思う。
おなじ時代の機種で比べてみると、ニコンF2アイレベルに近い。幅と高さはほとんどおなじで、T3の奥行きが1センチ薄いだけ。この「厚みの違い」はコニカ一眼レフを語るうえで、避けて通れない部分なのだが、それはまた後で書こう。
厚みが違うといっても、それはマウント基部のでっぱり量の差だ。左右に張り出すボディの厚みはほぼ同一で、重さも大差ない(T3がわずかに重い)。手にした印象もよく似ている。つまり、どちらもデカ過ぎて重過ぎて、気軽な写真散歩には不向きである。
ではどんなシチュエーションが似合うか、と問われて答えに窮するのも、この時代の一眼レフに共通したところ。昔の写真好きは、こういうカメラを登山や旅行に持参したのだから、気合いが入っていた。
両機はデザインもよく似ている。そう書くと反論が聴こえてきそうだが、70年代の国産一眼レフは、その当時のサラリーマンの背広姿みたいなもので、どれも似たり寄ったり。違うのはネクタイの柄くらいだから、個性というのも憚られる。
じっさい、真っ黒に塗りつぶしたシルエットを並べて、瞬時に判別できるのはF2フォトミックくらいじゃないか。機械式カメラは「まず中身ありき」で、デザインはそれをどう包むかで決まってしまうのだが、デザイナーの仕事を少なくしていたのは、変化を望まないユーザーでもあったはずだ。
外装仕上げに黒と白(シルバー)の二種類を用意するのも、この時代の国産一眼レフの定石どおり。ちなみに今の中古カメラ市場では黒の人気が高いようだが、十年くらい前は白の方がお洒落だった。
現存する黒のボディは、どれも塗装面が「てかてか」になっているけれど、白(シルバー)のメッキ仕上げは綺麗なものが多い。精密機械らしいのは白の方だが、黒には大柄なボディをコンパクトに引き締める効果があって、どちらを選ぶかは微妙なところ。
まあ、てかてかの黒とまっさらな白を差し出されたら、僕も黒に手が伸びるだろう。銀色の一眼レフは、趣味性が際立ち過ぎて、ちょっと気恥ずかしい。
精度の高いトップカバーは、真鍮製。この板材を何工程ものプレス加工で成形して、立体感に富む造形をつくりだす。それは戦後日本のカメラメーカーが、文字どおり「町工場レベルから、叩き上げて」育てた技術だった。
仕上げに施す化粧も、各社それぞれに持ち味がある。例えばクロムメッキの場合は、下地にニッケルメッキをかけるのがお約束で、その厚みなどに各社各様のノウハウがあったそうだ。
すべての時代の国産機を並べて比較したことはないけれど、コニカのクロムメッキは、たぶん最良の部類に入るものだと思う。これは50年代のIIIAから、60年代のオートS2に至る時期に熟成された技術だ。いっぽう黒の塗装仕上げも、熟練工がひとつひとつ手吹きで仕上げていた。メッキにも塗料にも、今では環境への配慮で使いづらい原料が、ふんだんに使われている。
そういう手の込んだ仕上げが施された外装も、70年代後半には樹脂モールドに置き換えられ、仕上げの技術も途絶えてしまう。
そういえば、しばらく前にレンジファインダーカメラ「S3」の復刻を担当した水戸ニコンは、外装のプレスやメッキの再現に苦労したらしい。またオリンパスの復活PENデジタルE-P1でも、外装のプレス加工が暗礁に乗り上げ、リタイアされた技術者のアドバイスを仰いだ、と聞いた。
ニーズの高い技術はどんどん進歩していくけど、使われない技術は廃れていく。むつかしいのは、技術の伝承よりも、何を残し何を捨てるか。その判断だろう。
(この項続く)
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▲photo01:ヘキサノンARマウントで最初の大口径標準レンズ、57ミリF1.4で撮る。このレンズは60年代半ばに、オートレックス(輸出名”Autoreflex”)の発売に合わせて用意されたもの。57ミリという半端な焦点距離は、その当時のダブルガウス構成で大口径とした場合の設計限界を示している。コニカは他社よりもフランジバックを切り詰めてレンズ設計の自由度を高めたのだが、それでも50ミリはハードルが高かったようだ。
ヘキサノンARで「イチヨンの50ミリ」が登場するのは、70年代のT3発売時のこと。そちらは後群にエレメントを1枚追加した7群6枚構成で、現在でも通用する性能を持っている。
▲photo02:上の画像から約13%をトリミング。反射防止膜が単層のためか、色のヌケはあまり芳しくない。また絞り開放ではちょっと甘い描写になる。この写真は開放から一段絞って撮ったもの。あと二〜三段分くらい絞ると画面が締まるが、それをするとこのレンズを使う意味もなくなる。古典的なレンズは甘めのピントやハレっぽさをポジティブに愉しむべきだろう。
▲photo03:大柄なボディだが、間延びした印象はあまり受けない。これはペンタ部を極力小さくまとめたデザインのマジックで、それと引き換えにホットシューは別体の外付けになっている。T3も後期型(T3NまたはニューT3)ではペンタ部を大型化したホットシュー一体式となり、このスリム感は後退する。
アルミ系合金のダイカスト製シャシーは前モデルのFTA/ニューFTA(輸出名”Autoreflex T/T2”)とほぼ共通。T3でシンクロターミナルがボディ端に移動したのは、それまでのマウント脇だとレンズ操作に支障をきたすと判断されたためか。ホットシューの一体化を含め、当時の一眼レフが外付けストロボへの対応に忙しかったことがよく分かる。ちなみにフラッシュバルブ用のM接点を持つコニカ製一眼レフはこのT3/T3Nが最後になる。
制作協力:脊山麻理子
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