The Legend of K’s (1)

2009-12-13 | 東京レトロフォーカス別室

Konica Autoreflex T3 / Hexanon AR 50mm F1.7 /  Kodak BW400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Konica Autoreflex T3 / Hexanon AR 50mm F1.7 / Kodak BW400 / (C) Keita NAKAYAMA

コニカのカメラのことは、いつかきちんと書いておこうと思っていた。
べつだん、誰かが代わりに書いてくれれば文句はない。いやできればそうしていただけるとありがたい。そうすればこちらも苦労なく胸のつかえを落とせるはずだから。
ではいったいなにが胸につかえているのかといえば、それは僕自身の不明を恥じてのことなのだ。

櫛の歯が折れるようにメーカーが減ってしまうそのずっと前、世界には驚くほど沢山のカメラブランドが存在し、それぞれに個性を競っていた。それらの多くは不完全な、言ってしまえば未完成な道具に過ぎなかったのだが、それでも受け入れられていたのは、撮り手が知恵と忍耐で足りない部分を補っていたためである。
それが、けっきょく今のようになってしまったのは、写真とはその完成にいたるプロセスの大半が、計算によって正解を得られるメディアだからだ。ゆえに絵筆やパレットと違って、カメラにはより正確な答えを迅速に提出する能力が求められる。答えが曖昧だったり間違っていたり、または余分なことをして即答を拒む道具は、しだいにユーザーにそっぽを向かれて廃れていく。断っておくが、これは過去形ではなく、現在進行形の話である。

自分で計算ができるカメラをさいしょに発明したのはアメリカ人だけど、それを誰にでも使えるようにしたのは日本人だった。発明から普及まで、およそ二十年ほどかかったのは、技術的にむつかしかったとかそういう理由ではない。たんに特許が切れるのを待っていただけの話だ。
コダックの技術者が発案したのは、シャッター速度優先の自動露出機構。これは露出計のメーター指針を機械的に押さえ込んで絞り制御に使う(電気的な情報を位置情報に置き換える)というもので、まあ今の目で観ればはなはだ原始的なカラクリである。でもこの機構が1938年に「コダック・スーパー620」に搭載された後も、他のメーカーは別のやり方を思いつかなかったので、特許の期限切れをじっと待つしかなかった。

Konica Autoreflex T3 / Hexanon AR 28mm F3.5 /  Kodak BW400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Konica Autoreflex T3 / Hexanon AR 28mm F3.5 / Kodak BW400 / (C) Keita NAKAYAMA

ずいぶん悠長な、と思われるかもしれない。でも機械式カメラの自動露出は、じつはこのコダック方式がほとんど唯一の方法で、世界中のカメラ技術者がどんなにアタマを捻っても逆立ちしても、他に真っ当な解答は得られずじまいだったのだ。それにこれは、特許の相互乗り入れ(=クロスライセンス)がごく普通に行われている今と違って、トレードに出せるほど有用な特許を他のメーカーが持たない時代の話である。
かつてアメリカの写真業界はコダックの寡占状態で、視点を世界に置き換えても、カメラ技術の面ではよく似た状況だった。潤沢な資金を技術開発につぎ込める巨大企業の前では、他のカメラメーカーは町工場に近い存在だったのだ。

とはいえ、大人として生まれるひとがいないように、どんなカメラメーカーもさいしょは町工場からスタートしている。そこからどれだけ成長できるか、それは商売のセンスだけでは決まらない。新しい技術をいかに採り入れ、独自の発想をどれだけ育てられるか、そこに町工場の活路があるはずだった。
そして、コニカにはそういう発想を大切にする会社だった。

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▲photo1:ヘキサノンの名は、ある種の写真好きにとっては今も信仰の対象であり続けている。これは70年代のコニカSLR用標準レンズ、AR50mmF1.7で。伝説の40mmパンケーキレンズとおなじ女流設計者の手になる作品で、線の細い描写と素晴らしいコントラストは今も一級品と呼べる出来だ。カメラボディは「コニカ最後の大型機」オートリフレックスT3。

▲photo2:こちらはやはり70年代のSLR用レンズから、AR28mmF3.5で撮った一枚。ファインダー視野の暗さがほとんど唯一の弱点といいたいほど素晴らしい写り。カラーで撮ったときの色乗りも絶妙だ。この時期のヘキサノンARにはおなじ焦点距離でF1.8という大口径レンズが存在するが、残念ながら僕は触ったことがない。

Special thanks to YUKO.

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