Voigtlander Prominent(1)

2013-05-31 | 東京レトロフォーカス別室

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C)  Keita NAKAYAMA

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C) Keita NAKAYAMA

プロミネントは、ノトーリアスなカメラである。
その道を踏み外したひとたちの間で知られた名前と、存在感のある面構え。だが良い評判はまず聞かない。つまり悪名だけがやたらに高いという、言ってみれば「凶状持ちのカメラ」なのだ。

ただし、じっさいに出逢って、その身持ちや品行に触れたひとの数は、そんなに多くないと思う。実体なしに悪い噂だけが先行するのも、ノトーリアスならでは。だからここでは「名うてのプロミネント」としておきたい。そういえば70年代ロックの名盤に「名うてのバード兄弟〜The Notorious Byrd Brothers」というのが、あったっけ。

そういうカメラをつくったのは、西独ブラウンシュヴァイクに社屋を構えたフォクトレンダー社。ちなみにこの町は数学者カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)の生誕地としても知られている。彼は別の町に移って天文台の館長を務めた折りに、ある光学レンズを着想しており、その概念に基づいてつくられたのがダブルガウス型、つまり現在まで連綿と続く前後対称型レンズの基本形である。

今では日本のメーカーがブランド使用権を有しているが、フォクトレンダーは18世紀にウィーンで創業した、光学機器製造の老舗にして名門中の名門。このブランドに比べれば、エルンスト・ライツなどは後発のヒヨッコに過ぎない(言い過ぎか)。
とはいえ、今の時代の骨董写真機好きの間で、フォクトレンダーといえば「一風変わったカメラ」「凝る必要のないところにやたら凝りまくったカメラ」の代名詞である。

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C)  Keita NAKAYAMA

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C) Keita NAKAYAMA

なにしろこの会社がつくるカメラといえば、縦長の二眼レフなのにフィルムが横送りになっていたり、トップカバーに煙突が立っていたり、取説なしではフィルム装填が困難だったりと、写真撮影には直接関係ない部分に工夫が凝らされている。だから好き者には堪らない代わりに、冗談を好まないひとには単なる厄介者。シリアスな場面でもいちいちウケを狙うお笑い系の性格俳優みたいなものだから、好悪が分かれるのはまあ当然だろう。

もちろん、ウケ狙いの小ネタ役者だけを囲っていたわけではない。フォクトレンダーには、もっと重厚な存在感を漂わせる役者も籍を置いていた。だがその役者は大作志向で演技が重く、当時の大衆が望んでいた軽妙な作品にはまったく向かない。現場でもたいがいは無愛想で、そのくせギャラは滅法高い。

そんなこんなで、いつしか彼には主役ではなく敵役の依頼ばかりが舞い込むようになった。セリフは少なく、登場するシーンはいつも短い。所属するプロダクションでも、彼の扱いには手を焼く始末。お洒落で軽快なイメージへの変身を図ろうとしたものの、土台が土台なので無理な話であった。
こうしてプロミネントは「名うてのカメラ」になっていった。
(この項続く)

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▲photo01/photo02:
聖母子像ふたたび。今回はカメラの特性と併せ、油彩的な調子で撮ってみた。撮影距離1メートル(最短)、絞りはF2.8、シャッターは1/50秒。上の画像はノートリだが、ファインダー上でのパララックス補正は指標のみの簡易方式。ぎりぎりのフレーミングは避けた方がいい。
旧フォクトレンダーでの撮影でいつも感心させられるのがコントラスト感の良さ。特に暗部の締まりは素晴らしく、それが豊かなトーンをがっちりと支える。ここではその特性を最大限に活かすべくシャドー基準(肌はアンダー目の露光になる)の露出とした。画面下の暗部をネガ上で潰すためだ。
ネガカラーでの露出アンダーはスキャンと後処理が難しく、この写真でも暗部に向かう階調に粒状荒れが目につく。肌を基準にすれば避けられることだが、そうするとトーンの厚みも出てこない。フィルム写真では「二兎を追わない」ことも大切だ。

C)  Keita NAKAYAMA

C) Keita NAKAYAMA

▲photo03:
フォクトレンダー・プロミネント(タイプlb=model#128)。装着レンズのウルトロン50ミリF2は二種類用意されたうちの「暗い方」で、他にノクトン50ミリF1.5を選ぶこともできる。僕は以前に両レンズを撮り比べたことがあるが、絞り設定がおなじ場合はほとんど差のない描写で、けっきょくノクトンは友人に譲った。ノクトンの開放ではボディ側のピント精度がちょっと追いつかないように感じたためだ。友人は高価なアダプターを入手してライカマウントで使っている由。その方がプロミネントよりもずっと使いやすいはずだが、でもおそらくおなじ絵にはならないだろう、という話は次回以降で。
旧フォクトレンダーの「つくりの良さ」はこの画像でもよく分かる。シャッター速度の数値表示などプリントのようにシャープで乱れがないが、実はこれは刻印なのだ。

制作協力:クニトウマユミ

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