Voigtlander Prominent(2)

2013-06-06 | 東京レトロフォーカス別室

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C)  Keita NAKAYAMA

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C) Keita NAKAYAMA

フォクトレンダーは、リドラーな光学機器メーカーである。
リドラーって何? と首をかしげるひとは、僕くらいの年齢層。昔々のバットマン(TVシリーズ)の悪役は、「ナゾラー」という意訳名をあてがわれていた。しかしまああのドラマは主人公も含めて、変人の巣窟であったな。

つまりフォクトレンダーは、謎々大好きのカメラ屋さんなのだ。ショーウインドーを覗き込むひとを見つけると、カウンター越しに手招きをして、こんな謎掛けをせずにはいられない。

「普段は黒目がちで、時おり目玉が真っ赤になるのは、誰の顔?」(←答えは次回にて)

スフィンクスと違って、答えを間違えた相手を食い殺したりはしない。でも謎掛けへの執着はそうとうに強く、ほとんど偏執的ともいえる。いったい何故そこまで固執するのか。その答えにはこのメーカーを理解する鍵が隠されている。って、これもナゾナゾかい。

仕掛け満載のフォクトレンダー製品のなかで、プロミネントはどちらかといえば「マトモな部類」のカメラである。裏蓋は二本の指で普通に開くし、フィルムの巻き上げもフツーにノブ式(製造中期よりレバー式)だ。いきなり手渡されて戸惑うのは、ピント合わせのやり方とボディの重さくらいだろう。

「んー、ピント合わせのやり方って、普通にピントリングを回すんじゃないの?」

僕が書くものを読んでくださるような方なら、答えは先刻ご承知のはず。ということを承知で書くと、もちろんピントリングの備えはある。でもそれはレンズ鏡胴の環っかではなく、どう見てもフィルム巻き戻し用と思しきボディ上のノブである。

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C)  Keita NAKAYAMA

Voigtlander Prominent / Ultron 50mm F2 / Kodak Gold 200 / (C) Keita NAKAYAMA

日本のカメラメーカーであれば、こんなアイデアが日の目を見る可能性はまったくない。製品開発の初期段階でデザイン評価用のモックをつくる前に、没。いやそれ以前に、これを閃いたデザイナーが廊下を走って飛び込んだメカ設計の部署で、失笑を買いまくっておしまいだ。
もし発案者がメカの設計者であったとしても、スケッチを見せた上司からひと言。

「面白いけど、ピントを合わせるときに、いったいどう構えるんだ?」

そうそう。このカメラを構えるときは、右と左の掌をおなじカタチにしてボディに添え、両端のノブに指を掛ける。つまり撮影者が「カメラにしがみついて」写真を撮るのである。
この当時の大判プレスカメラなら、それも許されただろう。でもライカ判でこれはない。だから熱心なユーザーの間では他の持ち方が研究されてきたけれど、発売から60年以上も経った今に至っても、他に有効なスタイルは提出されていない。

捻った謎掛けでも「答えはひとつだけ」というところが、いかにもフォクトレンダー。じっさいこのメーカーがやることは、いっけん無意味と思わせて、実はちゃんとした理由がある。
ではいったいに、そもそもなんでまた、こんなところにピントリングを置いたのか。
(この項続く)

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▲photo01/photo02:
窓辺にて。「どこを測るか」で露出値が大きく変わる場面。カラーネガの特性(露出オーバー側に余裕がある)を考えれば、顔の明るい部分を測ってプラス補正するのが正解。ただし旧いカメラでそれをやると明部のトーンが締まらずに浮く。ここでは補正をかけずに少しアンダー目のネガをつくった。肌と服の彩度が低めなのはハレーションの影響。こういう光の条件ではピント面の鮮鋭感が後退するのだが、それと引き換えに濃密な階調が手に入る。

プロミネントは「縦構図が撮りづらいカメラ」である。それは本文で触れた独特のホールドスタイルが原因で、左手を上に構えればピントリングの操作がやりづらく、右手を上にするとレリーズボタンに指が届き難い。そのうえどちらの場合でも片方の脇はだらしなく開く。
僕はメーカーの推奨(取説に載っている)とは逆に、右手を上にして中指でレリーズするよう心掛けているのだが、アガリを観ると「右上6:左上4」くらいの割合で構えている。ライカやコンタックスであれば、こんなことにはまずならない。構えがスキだらけで「決まらない」カメラというのも、なかなか困ったものである。

(C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

▲photo03:
プロミネント全体像。当時としては大柄なボディが間延びした印象を与えないのはデザインの妙。ただし重さは相当なもので、ボディのみで720グラムにもなる。余談だがこの重さ は素材の比重に由来するもの。普通のカメラがアルミや亜鉛などの合金で軽量化に努めているのに対し、このカメラはスチール、つまり鋼鉄を多用しているのだ (どの部材が鉄製かは磁石を近づけると分かる)。

問題のピント調整はこの画像の最下端にあるローレットを刻んだリングで行う。では行き場を失った巻き戻しノブは? 普通の設計者ならライカM5のようにボディ底面を使う筈だが、フォクトレンダーがそんな安直な逃げ場を選ぶ筈がなく、ちゃんと正規の位置で巻き戻しができるよう、凝った仕掛けが組み込まれている。

制作協力:宮崎優子

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