猫の帰還
しばらく留守をして戻ると、猫が還ってきていた。
もうずいぶんと付き合いが長いので、性質はよく分かっている。こちらが気を向けてもあちらは気乗りせず、逆に興が乗れば、こっちがどんなに忙しくしていても必ず相手をさせる。いつもいちばん居心地の良い場所を独り占めして、気に入ったオモチャは決して手放さない。
おめかしが大好きで、ヒマさえあれば毛繕いに余念がない。人間の決めたしきたりに馴染めず、広い道の真ん中を歩くこともせず、どこかに狭い隙き間を見つけてはそろりそろりと入って行く。そのくせ、余所で獲物を穫ってくれば、人にジマンせずにいられない。
じっさい、扱いにくいといえばそうなのだが、僕がこの動物に惹かれるのは、その扱いにくさゆえである。猫じしんもそのことはよく分かっていて、だから普段は適当に喉を鳴らし、でもイザというときには絶対に抗えない力を行使して、嫌も応もなくこちらの行動を支配する。
まあ支配といっても、夜中に窓を開けさせるとか、寒い日にコンビニに缶詰を買いに走らせるとか、たいがいはその程度のことなのだが。
そういう相手が不在であれば、心はずっと安らかで、掃除機や洋服ブラシをかける手間も減って、これは快適に過ごせると思えばそうでもない。何日かすると、猫が好んで入りたがるような隙き間を胸に開け、じっと帰りを待ちわびる自分に気づく。いやまったく、これはほんとうに始末が悪い。
だから僕は、いつでも猫が戻ってこられるように、冬でも雨の日でも、部屋の窓をすこし空け、いつもの特等席を暖めておく。やあ、おかえり。今までどこで何をしていたんだい? 偶には話を聴かせておくれよ。そう、君のわくわくするような冒険のお話を。夕食と毛繕いを終えてひと息つくまで、ここで待っているから。
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制作協力 脊山麻理子
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