Tea Break
カメラに入れっぱなしだったフィルムを現像に出した。
アガリを見ると、最初の数コマはこの春に撮ったもの。そこからフィルムのお終いまで、ほぼ半年かかったことになる。何やってんだか。
で、スリーブを眺めると途中に半端な未露光が。ということは、別のカメラからフィルムを移し替えたのだ。いつもならそこで最初のカメラに思い当たるのだが、なぜか今回はどうしても思い出せない。
田中長徳さんは「写真家とはその時に使ったカメラやレンズを繊細に記憶しているもの」と書いておられたけど、そういう繊細さはどうも僕の海馬にはないらしい。
まあ何で撮ったかが分からなくたって、べつにどうってことはない。観るひとはそんなこと気にも留めないのだ。などと言いつつ、でもなんだか気持ちが悪いので、手がかりを探すことにした。
最初にチェックすべきは、画像に現れるレンズのクセ、だろうか? それで当てられるひともいるかもしれないけど、僕はまったく自信がない。ボケ味とか、あんまし興味ないし。
僕の場合、こういうときにまず観察するのはフィルム上のコマの収まり。これは同じ機種でも個体差が出やすい、いわばカメラの指紋みたいなものなのだ。
問題のフィルムはコマ間はすべて正常、ただし最初のカメラで撮ったコマは僅かに片側のパーフォレーションに寄っている。こういう偏りは国産機、それも80年代以降の製品ではまず見られない。いっぽう昔のカメラ、特に「ハクライ」の機械ものは、使っているうちにスプロケットギアの位置が狂うのか、フィルムゲートとの位置関係がズレていることが多い。新品のうちからズレてるものもありそうだけど。
これでカメラはだいたい分かったので、次はレンズ。画角は35ミリかと思ったが、カメラと被写体と背景の位置関係を考えると50ミリのようにも見える。となるとアレかコレかソレか、考えても結論が出ないのでスキャン後にピクセル等倍でしげしげと観察して、ようやくレンズを特定できた。
判定の決め手は絞り開放で点光源に出るビネッティングの形状と、そこに発生する色収差。旧いレンズはそういう部分に特有のクセがあって、像高の高い部分では顕著に出る。これが最近のレンズだったら、たぶん迷宮入りだろう。コンピュータ支援設計ではそんなクセも無くなってしまうから。
使った機材は覚えておくに越したことはない。でももし忘れてしまったら、Exifやユーティリティの助けを借りられないフィルムカメラでは、無い知恵を絞りながら画面を観察するしかない。真相にたどり着けるかどうかは別として、なにかしら発見があるはずだ。夜が長くなるこれからの季節、そんな推理ごっこも愉しいと思う。
▲photo:Special thanks to Masami.
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フィルムカメラでレンズを交換しながら撮る場合、几帳面なひとはちゃんとメモを取る。僕はそういうのが苦手なので、必要な場合はレンズの名前を紙に書いておき、交換後の1コマ目にそれを写すことにしている。これはデジタル機でも有効で、先日は新しいオリンパス・ペンにライカレンズを使う仕事でこんなカットを撮った。
▲photo:Special thanks to Mayumi.
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