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Three Lives : メイキングセンス。by 中山慶太

Three Lives

2012-09-18 | 東京レトロフォーカス別室

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 /  6.3mm F3.1 1/640sec. ISO400  / (C)  Keita NAKAYAMA

docomo L-03C / Pentax 3X Optical Zoom 6.3-18.9mm F3.1-5.6 / 6.3mm F3.1 1/640sec. ISO400 / (C) Keita NAKAYAMA

猫は九つ、写真は三つの命を持っている。
そんなにあって使い切れるのか、とも思うのだが、危ない橋を好んで渡る猫には、それくらいの数が必要なのだそうだ。地上十数メートルの手すりを歩いて、こっちの寿命を縮める奴もいるので、なるほどそうかもしれない。
では写真の三つは、どういうワケなのか。

思うに、これは、ジェームズ・ボンド氏のように「二度死んでもへっちゃら」という意味ではない。そうではなくて、写真は「生命を三度授かる」ということである。最初はカメラのレリーズボタンが押されるとき、二度目は現像アガリのネガにマル印が付くとき。では三度目は?
モノクロ写真の場合は、暗室の赤い光のなかで、印画紙に焼き付けられるときに授かるのだと、ずいぶん前に聴いた記憶がある。話をしてくれたのは、僕よりもずっと年配で、僕など足下にもおよばない写真家だったから、そこには確かな真理があるはずだ。

そういえば、しばらく前に手にした本には、もっとたくさんの命を授かった写真が、それこそ山のように載っていた。十九世紀前半から現代まで、パリにまつわる作品を集めた分厚い写真集「Paris: Portrait of a City」である。
この本に収められたどの写真を眺めても、いやその撮影年を遡るほどに、撮り手の一瞬に賭ける集中力と、ネガを選んだときの(十九世紀の銀板はポジ画像だが)想い、そして暗室に籠った後の格闘ぶりが伝わり、ページを捲る手が熱くなる。

掲載写真は実に五〇〇点以上。著者はその六倍の枚数から絞り込んだそうだが、さぞ辛い作業だったことだろう。特定のテーマや作家への偏重を避けるため、優れた写真作品を落とさなければならないからだ。そういうセレクションは、猫を手すりから突き落とすくらいの気持ちでないと、できるもんじゃない。
そうして四つ目か五つ目、またはそれ以上の生命を与えられた写真たちは、分厚い書籍の中で収まるべき場所に収まって光を放つ。なんと幸せなことか。

重い本を傍らに、敬愛する写真家の言葉を思い出しつつ、自分で撮った写真を眺めてみる。そこに命はあるような気もするが、頭数はそろっているのかと自問する。胸を張って首を縦に振れる写真は、あまり見当たらない。そう思えるのも、たぶん幸せなことなのだろう。それは偉大な写真家たちの、ほんのつま先まででも近づく余地が、まだたっぷり残されているということなのだから。

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Paris: Portrait of a City:by Jean-Claude Gautrand / Taschen 2012, Hardcover

Paris: Portrait of a City:by Jean-Claude Gautrand / Taschen 2012, Hardcover

独タッシェン社刊、”Paris: Portrait of a City”(Jean-Claude Gautrand 編著)。今年(2012年)の春に出たばかりの書籍で、19世紀前半の写真黎明期から現在まで、パリで撮られた歴史的・文化的に重要な写真を網羅している。
作品が掲載される写真家は総勢138名。ウジェーヌ・アジェ、ブラッサイ、マン・レイ、ジャック=アンリ・ラルティーグ、アンドレ・ケルテス、ロバート・キャパ、アンリ=カルティエ・ブレッソン、ウィリー・ロニ、ロベール・ドアノー、ジャンルー・シーフなどに混じって、木村伊兵衛(珍しくもカラー)や田原桂一、森山大道の作品も収録。ちなみにこの表紙はヘルムート・ニュートンの撮影。

本書は写真の発達史としても面白く、初期の写真につきまとっていた欠点(露光時間の長さや解像感の不足など)が年を追うごとに克服されていった様子がよく分かる。特にライカ判カメラが登場した後の「ストリート・スナップ」の隆盛には、現在につながる写真表現のルーツを観る思いがする。また珍しいところでは、熱気球を用いた「世界初の空撮写真」なども収録している。
安価な本ではないが、内容に照らせば大バーゲン。手元に一冊備えておけばこの先の人生が愉しくなるだろう。

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