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Winter’s Tale : メイキングセンス。by 中山慶太

Winter’s Tale

2011-01-05 | 東京レトロフォーカス別室

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F2.8 1/25sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F2.8 1/25sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

去る年の瀬に、久しぶりの「ウラハラ」を脊山さんと散歩した。
いぜんに彼女をこの路地で撮ったのは、八年前の冬のこと。使ったカメラは東独製のエキザクタだった。重く持ちにくくて使いづらく、でもとびっきりに美しいカメラ。あの時の写真には、まだ大学生だった彼女の背景に、暗いネズミ色のアパートが写っている。今の表参道ヒルズの場所にあった集合住宅だ。

その建物、同潤会青山アパートメントは、大正15年/昭和元年に竣工した。大震災の被害を教訓に建てられただけに、外観も構造もそれまでの木造長屋とはおおいに違う。といっても、デザインは今の目で見れば凡庸な部類だし、建築物の骨格となる躯体(くたい)も、その後の近代建築でひろく普及したRCである。
アールシーの二文字にキヨシローを連想するのは僕らの世代。建築の世界では、Reinforced Concreteの略語としてもちいられる。「鉄筋コンクリート」よりもアルファベット二文字の方が賢そうだけど、表参道にこの建物が登場したころは、この工法をもちいた住宅はごく稀で、そんな気取った呼び方をするひともいなかった。

ところで、上の英語を読めば分かるとおりで、RCの定義は「強化されたコンクリート」であって、強化素材を鉄とする縛りはない。近年では化学繊維などで強化する工法も発明されているのだが、それはおもに耐震補強などの特殊用途。通常の建築では今も鉄筋補強が主流である。
これにはコストの問題ももちろんあるのだけど、鉄とコンクリートというふたつの素材は、きちんと組み合わせれば互いの欠点を補いあう。つまりすぐれた相互補完作用があるためだ。

おなじような例は、カメラの骨格にもある。エキザクタのような昔の金属カメラは、鋼板を折り曲げ、あるいは軽合金を鋳造した部品をシャシーにもちいて、そこに外板や機能部材を「つくりつけて」いた。それが今のカメラでは樹脂製シャシーが主流で、ガラス繊維などで強化したプラスチックは金属と同等の強度と剛性を持ち、寸法精度の高い射出成形で、ずっと軽く仕上げることができる。

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F3.2 1/400sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F3.2 1/400sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

二度目のウラハラ散歩に使った中判デジタル機も、主要骨格は金属で、要所に強化プラスチックを組み合わせている。おかげで大柄な外装から想像されるよりも軽く、長時間の撮影でもさほど苦にならない。工業製品としての精密感も印象的で、たぶん数十年たっても、初期の精度はきっちり保たれているだろう。
とはいえ、そんな未来にもカメラとして現役でいられるかは、また別の話である。

帝都東京とその周辺に建てられた同潤会のアパート群は、近代日本の集合住宅の流れを決定づけた歴史的建築とされる。その多くはすでに取り壊されてしまったけれど、ごく最近まで実用に供されていた建物もある。
僕も原宿や代官山など、いくつかの建物に入ったことがあって、さすがに階段のつくりや住居の間取りには古色蒼然の印象を受けたものの、実用に足りないものはない。台所や風呂などの水回りに、適当な「アップデート」を施すだけで、じゅうぶんに文化的な暮らしが送れそうだ。いやまてよ、文化的な暮らしって何だっけ?

道具も住宅も、使い続けていればいつかは耐用の限界がやってくる。現実にはその寿命を全うする前に、時流に即さず打ち捨てられ、または取り壊されるのが常である。長く使えるようにという知恵も、長く使おうという工夫も、欲望の濁流に呑まれ流される。アールシーの住宅も、バウハウスの金属カメラも、最後に残るのは思想だけである。
手持ちの旧いカメラが使用不能になる日が来たとして、僕らはそれを「使い切った」と言えるだろうか。

様変わりした冬の散歩道、僕はそんなことを考えながら写真を撮っていた。

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制作協力 脊山麻理子

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