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Working Class Hero : メイキングセンス。by 中山慶太

Working Class Hero

2011-03-24 | 東京レトロフォーカス別室

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

ある日あるとき、ある場所で撮影中に。突然シャッターが落ちなくなった。
こういうときに「落ちる、落ちない」というのは、どこから来た表現なのか。たぶん大昔のギロチンシャッターに由来すると思うけど、とにかくレリーズボタンを押してもウンともスンとも言わない。まてよ、「ウンとスン」って何だ?

カメラはFE2。ニコンの社名がまだ日本光学だった頃の、中級機にして名機である。発売は1983年で、僕の手元に来たのはその3年後くらい。新品ではなく、その頃に勤めていた事務所の社長から頂戴した「お下がり」だ。
その社長にしても、このカメラは中古で購入したものだから、僕が何代目のオーナーかは定かでない。まあそういうのは「俺が何人目の男だ」みたいなもので、問わぬが花か。どうせ訊いたって答えちゃくれないけどさ、カメラも女性も。真顔で答えられても困るし。
それに、事情はどうあれ、誰かのお下がりには慣れている。僕は次男坊なのだ。

そうそう、それでFE2の話だ。このカメラはプロアマ問わず愛用者が多くて、ニコン歴が長いひとなら、まず一度は使ったことがある。だから写真仲間で一杯飲るときなど、格好の肴になるのだけど、FE2に思い入れがあるひとたちは概ね美食とは無縁なので、盛り上がる場所はいつだって居酒屋だ。
塗りの剥げたテーブルに、ビールのジョッキといっしょに置かれて、トップカバーには煙草の煙や灰を浴び、底板はジョッキの結露で濡れる。ニコンFE2とは、そういうカメラである。

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

僕のFE2も、手元に来る前はけっして丁寧な扱いを受けてはいなかった。いやそうじゃなくて、プロの写真家のもとで正当な扱いを受けた、というべきか。黒いボディの角に真鍮の地肌が見えている、のはまだいい。ロケで投宿したサイパンのホテルで、カウンターから大理石の床に落下して、巻き戻しクランクの軸が曲がり、アイピースの周辺が凹んでいた。言っておくけど、落としたのは僕じゃない。
まあそういう訳あり難ありのカメラだから、社長も気前よく恵んでくれたのだろう。修理は自前で、レンズは新品を買った。良く写ったけど、趣味性の低いズームだったので、もう手元にない。

あれから25年。気がつけば、このカメラが僕の機材でいちばんの古株になっている。通したフィルムは何本くらいだろう。たいして撮っていない気もするし、ずいぶん撮ったような気もする。よく覚えていないのは、このカメラに熱を上げた記憶がないからだ。
もちろん、写真を撮る道具としてはよく出来ている。最高速1/4000秒、シンクロ1/250秒のシャッター。TTL自動調光に対応したストロボ接点。使いやすい絞り優先AE。こうしたスペックや機能が、今でも立派に現役として通用するのは、それらが広告やカタログの飾りではなく、ちゃんと撮影に使えて、写真の可能性をひろげてくれるからだろう。

といっても、僕はこのカメラの「肝」の部分、つまり美味しいところを、ほとんど使っていない。速いシャッターもせいぜい1/500秒どまりで、ダイヤルの緑のAマーク=自動露出モードもこの十年以上ご無沙汰だ。ホットシューにストロボを載せたのは、たぶん3回くらい。
ついでに書くとモードラのMD11(12ではない)はなぜか二台持っているけれど、ずっと埃をかぶったままだ。便利には違いないが、あれを使うなら他のカメラに手が伸びる。FE2は「素うどん」でいい。

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

Nikon FE2 / Planar 50mmF1.4 ZF / RealaACE / (C) keita NAKAYAMA

そうやって使う理由と趣味性に乏しいカメラを、なぜいつまでも手放さずにいるのか。これは「なんとなく」ではなくて、ちゃんとしたワケがある。他のカメラがぜんぶ使えない状況でも、これだけは「なんとなく撮れる気がする」。つまり、傍に置いておくと安心するから。
もう少しきちんと書けば、このカメラの露出計は、ライカM5とおなじくらいに使いやすい。メーターの「出た目」から何段補正する、という作業が、頭をまったく使わずにできる。僕のアタマは無理に使うとろくなことにならないので、こういうカメラがちょうどいい。

手を伸ばせば、いつでもそこにある。それで安心してしまうものだから、僕のFE2はこのところ、あまり出番がない。でも使わずに置くのはメカのために良くないと、久しぶりに持ち出して撮っていたところで、冒頭のシャッター不調。

「あ、ついにこの時が来たか」

FE2のシャッターは、プロ機のようにレリーズ十万回保証とかの耐久性は、持ち合わせていない。というか、実はこの「ハニカムエッチング入りチタン薄幕縦走りフォーカルプレーンシャッターユニット」はFE2のアキレス腱で、壊れるときには一気に全壊するそうだ。
裏蓋開けたら、チタンの羽根がハラハラと落ちてくるかも。そう思いつつ開閉ロックキーに指を掛けて、まてよ、と思いとどまった。この前に電池を替えたのは、いつだったっけか。

英語圏のひとたちは、実用に徹した道具を”Work Horse”と呼ぶ。直訳すると使役馬。そういう道具を使うことへの自嘲も込めつつ、世話をしながら長く傍に置く。そんなアイロニーと愛情が感じられる、佳い表現だと思う。
でも僕にとってのFE2は、ただの使役馬ではない。与えられた仕事を黙々とこなすだけではなくて、使い手の足りない部分を、きっちり補ってくれる。手荒に扱っても文句を言わず、手入れを怠っても機嫌を損ねず、食事も滅多に要求しない。

そんなカメラが手元にあるって、なんとも素敵なことじゃないか。

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