鵟の墜落(1)

2014-09-19 | 東京レトロフォーカス別室

(C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

鳥は水面ちかくをすべるように飛び、わずかに羽ばたいて岸辺に降り立った。

水鳥でもない大型の鳥が、そんな場所で翼をやすめることはめったにない。鳥に限らず野生の生きものたちは、可侵と不可侵の境界を頭に刻んでいるものだ。しかも季節はまだ初秋、水鳥の餌を横取りせずとも、彼のような猛禽類は野山に獲物を探せるのである。

鳥はばさばさと音を立てて翼をたたみ、西日を見つめて瞬きをする。茶色の瞳はすこし色が濁り、胸の羽毛はふくらみを失い、そして翼の羽根には綻びが目立っている。すこし離れた場所でその姿を認めた小さな鳥が、ひょこひょこ飛び跳ねて彼に近づき、せわしない声でこう話しかけた。

「ねえ、今日はどんなお話をしてくれるの」

老いた鳥は羽根をばたつかせ、いかにも「億劫そう」な仕草をしてみせる。だがその内心は隠しようもなく、年端のゆかぬ相手にもしっかり見透かされている。彼はいつもこの時間にここに降り立ち、小鳥に話を聞かせるのを愉しみにしていたのだ。

「儂がアフリカの雪山で見かけた豹の屍の話はどうかな」

「それはついこないだ聞いたばかりだよ」

「おや、そうだったか。それならもっと北の地中海で出会った、空から写真を撮る男の話は?」

「それはたぶん、まだだと思う」小鳥はすこし首を傾げる。「でもそれ、おもしろいの?」

「儂が今までにつまらない話をしたことが、あるかね」彼は小鳥が突き出す嘴に、鼻白むそぶりも見せずに言った。

「もうずいぶんと昔のことだ。とある大きな島にちっぽけな飛行場があった。それはウナギのように細長い湖と、陽が昇る海に挟まれた陸地にぽつんと置かれて、いつも潮を含んだ風に吹かれていた。ちょうどこの岸辺のようにな」

「ある晴れた朝、その滑走路にまばゆい光を放つものが引き出された。それは三つの胴体を持ち、銀色に輝く飛行機だった……」

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