0.06msec.の憂い(1)
シャッタースピード1/5秒で、約12ミリのブレがある。
ということは毎秒6センチ。被写体がそういうスピードで動いた痕跡が、この写真には写っている。
レンズを向けていても、人物はそれくらいの速さでポーズを変える。もっと素早く動くときもあるし、ほとんど動かない場合もある。
じっさい、どう動いてもらってもまったく構わないのだけど、この写真で髪の毛一本までの動きを完全に止めようと思えば、1/500秒くらいでシャッターを切らないと駄目だろう。
その場合の撮影感度はISO200に7段弱分の増感。つまりISO20000超のセッティングにしないと、おなじ明るさは得られない。
最新のデジタル機では充分に実現可能な領域だが、その時の画質については、正直あまり想像したくないところである。
もちろん上の計算は、撮影者側の動き、つまりカメラブレがゼロと仮定しての話。現実には多少のブレも入っている(三脚は立てていない)はずなので、そこまでシビアな状況ではないかもしれない。
でもひとつ言えるのは、カメラ側がどれだけ進歩しようと、低速域での被写体ブレは、決して止めることはできないということだ。
そして人物写真の面白さも、実はそのあたりの低速シャッター領域にある。なぜならそれは、「予測はできても再現不可能」なものだから。そう、ちょうど彼女の表情とおなじように。
すこし話は違うけど、僕が仕事で写真とつき合いはじめた頃に「手持ちで1/8秒が実用になることが、良いカメラの条件」だというひとがいた。なぜ1/8秒かといえば、手持ちではそれが限界に近いからだという(当然、手ブレ補正のような飛び道具はまだ実用化されていない)。
僕の乏しい経験に照らせば、この条件に適うのはやはり高級機。ニコンやキヤノンのプロ用カメラと、それに京セラ・コンタックスの上級機が優秀だった。このあたりのカメラなら、重くて頑丈なボディがミラーとシャッターのショックを受け止めてくれる。その目方の分だけ肩が凝るけれど、まあ高い値札が付いていただけのことはあった。
逆に最悪だったのは大昔の、ではなくて、70年代半ば以降に流行った安価なファミリー向け一眼レフだ。僕が使ってみた中では、コニカAcom-1が駄目駄目で、これはミラーとシャッター(縦走りのメタルフォーカルプレーンシャッター)がおなじ縦方向の動きをして、そのショックを軽量ボディが受け止められず、ブレは止まるどころか増幅する。操作が硬いダイヤルの1/8秒は、実用上のレッドゾーンに飛び込んでいた。
良くしたもので、このカメラではそれより遅いシャッターは非装備。常識的に考えればコストダウンのための省略だけど、たぶんコニカの設計者も、流石に気が咎めたのではないかと思う。あの当時、ブレ写真は失敗写真と同義だったのだ。
(この項続く)
Special thanks to MAYUMI KUNITOU.
Trackback URL