Absence317072
Konica IIIA / Hexanon 50mm F1.8 / Kodak Portra 400VC / (C) Keita NAKAYAMA
この正月、久しぶりで母と散歩をした。
母は海のすぐ近くに住んでいる。波打ち際まで僕の脚なら徒歩三分。のところ、母はその倍以上か、もうすこし時間がかかる。とちゅうに急な階段があり、今の母の脚ではそれを降りるのが難儀なのだ。
そこから先も、脚を砂に取られるので、母はあまり歩きたがらない。
無理をさせてもいけないので、階段の上の公園に母を待たせて、波打ち際までひとりで歩いていった。
子供の頃に歩いた時は、灰色の砂ばかりが続く浜辺に思えたものだが、今歩くと砂利浜である。そこに波が雪のように白い泡をつくり、さぁっと音をたてながら消えていく。まるでこの世に確かなことなどなにもない、と言わんばかりに。
公園に戻り、母と歩きながら話をする。ついこのあいだのことなのに、なにを話したか覚えていない。覚えているのは、斜光線を背にしたときに、地面に長く延びたふたり分の影を見て、とっさにカメラを構えたこと。
手にしたカメラの絞りと距離指標でピントの範囲を設定し、歩きながらファインダーを覗いて数カット。こんなツーショットは、これが初めてかもしれない。母は僕に輪をかけた写真嫌いなのだ。
Konica IIIA / Hexanon 50mm F1.8 / Kodak Portra 400VC / (C) Keita NAKAYAMA
我ながら佳く撮れた予感がしたのだが、さて。こういう私的な写真というのは、どうにも判断がむつかしい。撮り手の思い入れが、観るひとに重すぎないよう、気をつけてはいるのだが。
それはそれとして、今こうしてアガリを見ると、もうすこしピントを奥に入れるべきだった。というより、もっと低感度のフィルムで絞りを開くべきだったか。撮るときは、なるべく普通に撮ろうと思った気がするのだけど、写真は気まぐれを赦さないものである。
発色に偏りのあるレンズとフィルムの相性もいまひとつで、後処理を加えてもなかなか思い通りの色が手に入らない。
次の機会にもう一度、とも思うが、あいにく僕のコニカIIIA「シリアルNo.317072」はレンズシャッターが不調をきたした。それに加えて、母もすこしばかり入院をすることになった。どれくらいの不在になるかはまだ分からない。
でも、母が退院したら、また日だまりの散歩道で写真を撮ろう。カメラやフィルムなんて、べつだん何でも構わないし、おなじ写真を撮る必要もない。今度は波打ち際を歩けると良いのだが。
Trackback URL