Bird Strike
千羽の群れから、ただの一羽を見つけ出す。そんなことができるだろうか。
僕にはやってのける自信がある。なぜならその鳥には、他に見られない徴(しるし)があるからだ。
羽根や瞳の色ではない。ぜんたいの模様でもない。碧空を往く姿が違うのである。翼を真っ直ぐに伸ばし、まるで礫(つぶて)のように飛ぶ。そのさまには、すこしの迷いもみられない。
もちろんそんな飛び方をしていたら、いろんなところでいろんなものにぶっつかるはずだ。群れのなかでもさぞかし衝突が多いことだろう。
じっさいに生傷は絶えないようだが、その小傷や毛羽立ちすらも、しなやかな動きに魅力を添える。そういう鳥はまず滅多にいない。
この日、鳥はどうやら僕のことを覚えていたらしい。いつものようにこちらに向かって飛んできて、翼で大気に制動をかけ、目の前にふわりと静止してみせた。一秒か、何分の一秒か、もしかすると何十分の一秒。そのわずかな間で充分だったのは、まるで巻き尺で測ったような正確さでカメラのピントの平面に留まり、レンズ越しに目を合わせてくれたからだ。
そうして一瞬ののちに飛び去った鳥を追わずに、僕は今しがたの目の表情と、互いの距離の意味を考える。それはたぶん、なにかを避けるためのぎりぎりの間合いだったのだろう。
では、なにかとはいったいに何か。衝突か抱擁か、それとも妥協か。
いちどそれを問いただしてみたいと思っているのだが、あいにくと相手は冬鳥で、季節が巡れば北に還る。先に水辺を訪ねたときも、空にその姿はすでになかった。
群れの行方は杳として知れず、所在の報せも受け取っていない。そう、まだ今のところは。
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