猫に関するいくばくかの真実(1)

2010-09-29 | 東京レトロフォーカス別室

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F2.8 1/15sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

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猫と見れば、尻尾に触れずにいられない。すらりと伸びた西洋猫の尾も素敵だが、とちゅうで折れたり、太く短くカールした和猫のそれも、どこか割烹着姿の女性を思わせ、また愛おしいものである。
種の血筋に由来する猫の尻尾も、交配が進んだ今の雑種では、そのときどきで和洋両方の特徴があらわれる。といっても、今日びは折れ曲がりの無い尻尾が、昔よりも多くなった気がする。そちらの遺伝子が優勢なのだろうか。
ちなみに猫の尻尾の折れ曲がりは、英語でキンク(kink)と呼ぶらしい。

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知り合いの魔女に教わった呪文を唱えると、猫は人間の娘に姿を変えた。ドロン、という例の効果音も、白い煙もなしに。
「なんの用かしら」と、もの憂げな言葉もそこそこ、彼女は片隅の鏡に向かい、さっそくおめかしをはじめる。
「うん。ちょっと聴きたいことがあってね。それはそうと、その可愛い服はどこで手に入れたんだい」
「あら、これはワタクシの毛の模様よ。さっきの呪文の文字配列が、あなたの視角と聴覚に音声コマンドとして作用して、神経電流の波形を鋸歯状波から矩形波に変えたものだから、ワタクシの姿と声がいつもと違って感じる、そういうわけ」

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F2.8 1/11sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

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「今の説明はどこか変だな、納得がいかない」脳の信号はギザギザじゃなく、なめらかなサインウェーヴじゃないかと、僕はアタマの片隅で考えながらつぶやいた。「それと、一人称の選び方を間違えてやしないか。ワタクシじゃなくてアタシだろう、猫ならふつう」
「だって、人称代名詞って、人間どうしの決めごとでしょ。ワタクシは猫だもの」
彼女が髪をかきあげる長い指の先に、手の込んだネイルアートが見える。
「ネイルサロンにも通ってるのか」僕はあきれて言った。「そんなもん、この近所のどこにあるんだ」
「これはツケヅメよ。あなたがこないだ、ワタクシの爪を切っちまったものだから」
「僕のブーツで爪を研ぐからだよ。おかげで雨の日に履く靴がなくなった」
「こっちは、爪をなくしたばっかりに、こっぴどく喧嘩に負けたのよ。ここ、よおく見て」と前髪をかき分けると、おでこに四本の引っ掻き傷。相手はどこのドラ猫だろう。

Mamiya ZD / Mamiya Sekor 80mmF2.8D / F2.8 1/11sec. ISO400 Av / (C) Keita NAKAYAMA

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「そうか、それは悪いことをした。このとおり謝る」僕は娘の後ろ姿に、二度アタマを下げた。
「いいわよ、もうじきに治っちゃうし。それより、質問って何」
「いや、君がいつも、こっちの窓から外を眺めてるのが気になってさ。だってほら」
僕が窓辺のカーテンを引いたので、彼女は眩しそうに目を細める。
「外には何もないじゃないか、空のほかには」

「それがね、ワタクシにもてんでよくわかんないのだけど」
娘はなにやら真顔になって窓辺に立つと、プラスチックの爪でガラスを叩いて、こう続けた。
「いつも誰かが呼んでいるのよ。ずっとずうっと遠くから」
(続く)

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制作協力:脊山麻理子
hair & makeup:田島加奈子

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