Days As Usual(7)
朝に東の門より出ずれば、その路に砕け散った薔薇あり。
そのまま手を触れずに一枚。散り散りの破片を拾いあつめ並べ直してもういちまい。撮った二枚を眺めると、さいしょの薔薇はこういっていた。
「私をお金で買ったひとの顔も踏んだ靴底も、ぺしゃんこにしたタイヤも、こうして乾涸びさせた太陽も覚えていません。知っているのはただひとつの笑顔と涙です。私はそのために咲いたのですから」
そして二枚目の薔薇はもうなにも言わなかった。
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夕べに西の門より出ずれば、その路傍に鳥の屍あり。
写真を撮らずにしゃがみ込み、両の掌におさめる。濡れ色の羽根が未だ伸びきらぬ雛の、その尖った嘴と丸いオデコは、まごうかたなきカラスのそれである。
かたわらの電柱に巣があることは知っていた。高さは三階のベランダほどで、そこから歩道に墜ちたのだろう。苦しげに閉じた目の上に傷が、歩道にすこし血の痕があった。
そうしてわずか遺る体温を掌に感じつつ来た路を戻り、狭い花壇の土を掘りながら考える。
雛は落下するときに羽ばたいただろうか。この羽根が役に立つまでに、あとどれだけかかったのだろう。親鳥がこの雛の存在を忘れるのに、どれくらいかかるのだろう。
自分がこうして拾わず埋めずにいれば、骸は他のなにかに喰らわれ空いた腹を満たしただろうか。次の朝まで、いや何日もその場に捨ておけば、誰かの目を惹く写真が撮れただろうか。
カラスはなにも語らず、僕の二門出遊はそこで仕舞いとなった。
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