Lady in Black

2012-03-22 | 東京レトロフォーカス別室

Leica M5 / Summincron 35mm F2/  F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Leica M5 / Summicron 35mm F2/ F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C) Keita NAKAYAMA

クロかシロかといえば、クロに決まっている。
いや、犯人捜しではない。なにかを写真に撮るときに、どっちが撮りやすいか。そういう話だ。

白いものはトーンが飛びやすく、黒いものは潰れやすい。これは露出設定の問題なので、カメラを適切に操作すれば防ぐことができる。操作が面倒ならカメラ任せでも大丈夫。今どきのデジカメなら、そんなに悲惨なことにはならないし、白飛びや黒潰れを警告してくれる便利な機能もある。

白っぽい、または黒っぽい部分だけを取り出して、そこにトーンを与えるのはむつかしくない。問題は画面全体のバランスだ。真っ白な服を着た人物の背景が、もし雪景色だったら。反対に喪服の美女が薄暗い夜道にたたずんでいたら。
後者の場合はその場を立ち去った方が良さそうだが、いや前者にしても雪女という可能性も捨てきれないが、とりあえず逃げる前に、証拠写真のいちまいくらい撮ろう。そういう肝の座ったひともいるかもしれない。

そんなときに、服や背景のトーン再現にこだわると、どうなるか。雪女の肌は浅黒くなり、喪服の美女の顔は福笑いよろしく目鼻口のパーツだけになる。それでは折角のムード、いや設定が台無しだ。
といっても、写真が記録できる明暗の幅は限られている。もしその幅が広がったとしても、生身の人間は視覚情報に「心理的な露出補正」を加えて記憶するため、忠実に記録された写真には却って違和感を覚えるという。
写真の明暗再現とは、なかなかやっかいなものなのである。

Leica M5 / Summincron 35mm F2/  F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Leica M5 / Summicron 35mm F2/ F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C) Keita NAKAYAMA

なぜそんなことを考えたのかというと、先に白無垢の花嫁を撮らせていただいたためなのだが、これが現像アガリの後処理で悩みに悩んだ。
衣装のどの部分にも調子を出す(階調を与える)ことは、ネガフィルムでは特にむつかしくない。ところがそれをやると雰囲気がまったく出ない。なんというか、婚礼衣装のカタログみたいになってしまう。そういうのは別のひとの役割だろう。

いろいろやってみての結論は、いちばん見せたい部分はどこか、を見きわめること。それが人物の肌だったら、他の部分はそれを引き立てる脇役なので、深くこだわる必要はない。肝心なのは飛ばそうが潰そうが、「そこに階調があるように見せ(かけ)ること」なのだ。
思うに、こういうのは長年モノクロをやっているベテランなら、とっくの昔に身につけている割り切りである。というより、演出術のひとつだろうか。全体を見ながら情報を整理することで、撮り手がなにを見せたいのかを明らかにする。いやそれ以前の問題として、写真に「力」を与えなければ。

ただし飛ばすにせよ潰すにせよ、それを後処理で操作する余地は残しておこう。ネガカラーは明暗どちらも良く粘る(階調情報を残す)けれど、撮影時に気を遣わずに済むのは暗部の方で、ハイライト側は油断すると完全な素抜けになりやすい。だから服の色は選べるなら「シロよりクロ」である。夜道で出くわすのはご免だけどね。

情報の整理というのは、言ってみれば絵画術に通じるもの。つまりすべての写真に通用するわけではない。
でも、今さらなぜこういうことを書いているのかというと、僕自身がさいきんのデジカメ映像の「巧過ぎる絵づくり」を受け入れて、それを良しとしてしまいがちだからだ。

Leica M5 / Summincron 35mm F2/  F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C)  Keita NAKAYAMA

Leica M5 / Summicron 35mm F2/ F2 / 1/2sec. / FUJICOLOR Superia X-Tra 400 / (C) Keita NAKAYAMA

趣味で写真を楽しんでいて、「自分で絵をつくる」ことに興味を持つひとなら、カメラ内蔵のフィルターやダウンロードのアプリを楽しんでいると思う。そういうのも面白いけど、ネガ撮りでコントラストを自分でつくる面白さ、というよりフィルム写真の底の深さを、もういちど見直すのも悪くない。っていうか、こっちの面白さと底の深さは、デジの比じゃありませんぜ。

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▲photo01:いつものように彼女は、電話で服の色を訊いてきた。咄嗟に「黒と赤で」と答えたのは、白無垢の画像処理に悩んだ反動か。まあ深い意味はなかったのだけど、コートが別の色だったらこの写真は撮らなかったはず。ちなみに「赤」は次回にて。
後処理の幅を持たせるため、露出値はプラス2段半で設定。理論値ではネガでもハイライトの白飛び限界に近い値だが、この領域でもトーンが残ることは分かっている。問題はシャッター速度がスロー側に寄り過ぎるのと、スキャンに手間がかかること。ここに上げた2枚は別々のパラメータで取り込んだ画像3枚を合成している。

▲photo02:人物の髪や影などネガ上に残った階調を顧みず潰す。ここまでやるなら最初から適正露出で撮るべきかもしれない。ただしそれをやると暗部は完全な未露光になり、後処理をいっさい受け付けなくなる。結果はおなじでも、プロセスに迷う余地を残す方が面白い。「時間のムダ」という考え方も、もちろんある。

▲photo03:上の画像から顔の部分をトリムしたもの(被写体ブレは織り込み済み)。これが仕上がり画面なら顔の影はもう少し明るめに、襟元の階調ももう少し残しただろう。構図が変わればコントラストの最適値も変わる。表情ひとつで変えるべきかもしれない。

制作協力:宮崎優子

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