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流感のオルフェウス : メイキングセンス。by 中山慶太

流感のオルフェウス

2012-02-08 | 東京レトロフォーカス別室

FinePix X100 / Fujinon Super EBC 23mmF2 / F5.0 1/60sec. / ISO3200 / (C)  Keita NAKAYAMA

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詩人は亡き妻を追って黄泉の世界に分け入り、冥王との謁見を果たした。
彼は首尾よく王に取り入り、取り戻した妻を従え現世(うつしよ)を目指す。だが前方に光が見えたまさにその時、「決して振り向かぬこと」という約束を違え、妻の姿を瞳に映してしまう。
すべては水泡に帰し、二人は二度と逢うことはなかったという。

この「オルフェウスの冥界行」はギリシャ神話ではよく知られたもので、文学や映画にもこれを下敷きにしたものは多い。人気の秘密は舞台設定の巧みさに加え、きわめて魅力的な配材(ハデスやケルベロスなど人気キャラがてんこ盛り)、そしてなんといっても「結末の普遍的アンハッピー度」に尽きるだろう。
「あのときにもしも・・・していれば」、または「・・・していなければ」という自問と後悔は、誰にだってあるものだ。このお話が(いかにも神話らしい荒唐無稽な仕立てでありながら)、読む者の心に留まるのは、そういう「弱さ」でオチをつけているためである。
いやまったく、ほんとうに。

オルフェウスが高い人気を持つもうひとつの理由は、その平和主義に徹した行動様式に因る。英雄たちのように武器を帯びることをせず、彼は愛奏するリラ(ギリシャの竪琴)ひとつを携えて旅を続ける。

FinePix X100 / Fujinon Super EBC 23mmF2 / F2.0 1/60sec. / ISO800 / (C)  Keita NAKAYAMA

FinePix X100 / Fujinon Super EBC 23mmF2 / F2.0 1/60sec. / ISO800 / (C) Keita NAKAYAMA

件の冥界行でも、往く手を塞ぐ相手を美しい音色で懐柔していくのだが、これは作劇術としてなかなか巧みだ。もしオルフェウスがケルベロスを殺してしまったら、「死者の世界に棲む者を殺す」というパラドクスが露になる。
もちろん、そういうツッコミを無視して粛々と語り進むのが、神話の正しいお作法である。

つま弾く琴の音を武器代わりに旅を続ける詩人は、今風の視点でも、なかなかクールなヒーローに映る。だが冥界を往く彼が、黄泉の王から妻を取り戻すという熱情、いや熱狂の中にあったことは確かである。しかもその状況でなお沈着な彼であれば、ハデスが持ちかけた条件(黄泉を出るまで、けっして振り向かぬこと)の意図も、よく分かっていたはずだ。

だから、それゆえに。懸命な読者は、結末で取り返しのつかぬミスを犯すオルフェウスの心情を、「妻が後ろについてきているか、不安に思った」などと読み解いてはいけない。そんな単純な脚本は、マッチョでノータリンのヒーロー向けの企画に回して、とっととハリウッドに売り飛ばすべきだ。

たぶん、おそらく、いやきっと。熱に浮かされたように冥界を走り回ったオルフェウスは、最後の最後で「もう充分だ」と思い、そして妻に永遠の別れを告げるために振り向いたのだ。

FinePix X100 / Fujinon Super EBC 23mmF2 / F5.6 1/60sec. / ISO3200 / (C)  Keita NAKAYAMA

FinePix X100 / Fujinon Super EBC 23mmF2 / F5.6 1/60sec. / ISO3200 / (C) Keita NAKAYAMA

そして、僕がこの話を思い出す度に気にかかるのは、そのときに妻エウリディーチェは、いったいどんな目で夫を見つめたのか、である。たぶんすべての想いが詰まった、そしてなにより「赦し」に満ちた表情ではなかったかと思う。
もしそうであれば、この話はハッピーエンドで括れるのだが。

などと、脈絡のないお話を綴りつつ、どうも体調が思わしくないので体温計を使う。合図に応じて引き出した棒の液晶には「38.5」の数字。どひゃあ。
熱に浮かされまともなオチも付けられぬ状態だが、まあ後からそういうのを振り返って読むのも、悪くないだろう。
読んでくださって、ありがとう。

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Special thanks to YUUKO MIYAZAKI.

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