Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 520

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 535

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 542

Deprecated: Assigning the return value of new by reference is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 578

Deprecated: Function set_magic_quotes_runtime() is deprecated in /home/users/1/gloomy.jp-kono/web/nakayamakeita/wordpress/wp-settings.php on line 18
Start Again(3) : メイキングセンス。by 中山慶太

Start Again(3)

2013-05-29 | 東京レトロフォーカス別室

 (C)  Keita NAKAYAMA

(C) Keita NAKAYAMA

じっさいに中を開けて覗いたことは、一度もない。
なぜやらないかといえば、バラして元に戻す自信がないから。一寸した気の迷いでそれをやって、祭りの後状態になった物品はいろいろある。失敗の繰り返しの学習で器用さに磨きをかけるひともいるだろう。僕はそれと反対に、精密ドライバーを手の届くところから片付けてしまった。火遊びさえしなければ、オネショもせずに済むからだ。

だからスタート専用レンズの構造がどうなっているのか、ぜんぜん知らない。でも勝手な想像をすると、この特大のレリーズボタンの内側に仕込まれたロッドには、ウォームギアが切ってあり、それで直線運動を回転運動に変えているのではないかと思う。その先のリンクはギアかレバーかワイヤーか、はてさて。

そのメカで何をするのかといえば、絞りの開閉だ。指先のストローク量に応じてダイヤフラム(絞り羽根)を動かし、セット値まで絞り込んだところで、ボディ側のレリーズボタンに連携する。文字にするとなかなか精密な雰囲気だが、システムとしてはごく原始的。というか、このコンセプトに限って言えば、カメラがようやく二本足で直立して石器を使うようになったようなもの。もちろん火はまだ起こせない。

KMZ Start / Herios-44 58mm F2 / Kodak ProFoto XL100 / (C)  Keita NAKAYAMA

KMZ Start / Herios-44 58mm F2 / Kodak ProFoto XL100 / (C) Keita NAKAYAMA

それでもこのメカは、ボディとレンズが「ただマウントだけで繋がっていた」時代から、相互に情報交換をする時代への橋渡し的な役割りを果たした。
なにしろこういうカラクリが登場する前の一眼レフときたら、撮影前に絞りを開放にしてピントを合わせ、レリーズ直前にもういちどセット値まで絞り込む。だからシャッターチャンスにはめっぽう弱く、それでプリセット絞りなどという工夫も生まれたのだけど、そんなのは手近な石ころを投げて相手を倒そうとするようなもの。直立歩行にもほど遠いものだった。

そんな原始のフェイズからは多少進んだものの、スタートが採用した絞りとレリーズの連携機構は、大した注目も集めずに消えていった。指先の器用さと低賃金で世界をリードした極東の町工場が、洗練度で遥かに勝るカメラやレンズの量産に成功したからだ。

モスクワ郊外のKMZ工場がこの大柄な一眼レフの製造を打ち切るちょうどその頃、日本のカメラ「アサヒペンタックスS3」の報せがモスクワに届けられた。それが国営タス通信を通じてのことかどうかは、よく知らない。でもソ連のカメラ技術者が引き際を心得ていたことは、確かだと思う。

それから半世紀が過ぎ、僕は久しぶりの旧い一眼レフで写真を撮ることにした。長いストロークを持つレリーズボタンを押し込んでいくと、ファインダー視野は徐々に光を失い、そしてピント面は次第に深くなる。

KMZ Start / Herios-44 58mm F2 / Kodak ProFoto XL100 / (C)  Keita NAKAYAMA

KMZ Start / Herios-44 58mm F2 / Kodak ProFoto XL100 / (C) Keita NAKAYAMA

今のデジタル機のライブビューなら、この深度変化も明るさを保ったまま確認できるのだが、こちらのプリミティブな視野には、原始の眺めならではの驚きと喜びがある。
その暗い視野を観ながら指に力を込め、「バシャッ」とシャッターが落ちるまで、さらにひと呼吸。このタイミングがなかなかつかみにくく、だから一瞬のチャンスは指先からするりと逃げていく。

でも、だからどうだと言うのだ。たかが写真を撮るのに、大の大人が懸命に苦心するのも、子供が液晶モニタの視野を当たり前に受け入れるのも、それはたんにプロセスの問題。どちらも不完全な人間がつくった不完全な仕掛けでしかなく、要は「遊び方」の違いである。
もしそうであるなら、絞り制御の時代に向けてスタートラインに着こうとしたこのカメラにも、もう少しの光を当てて欲しいと思うのである。
(この項終わり)

*******************

▲photo01:スタートを俯瞰する。今回の撮影で気づいたことだが、このカメラはウェストレベルファインダーとの相性がたいへん良い。これはレンズの光軸方向に押し込まれるレリーズの動きを身体で受け止めることができるため。顔面で支えるアイレベルより、腹や腰で支えるこちらの方がブレにくいのだ。この構成と配置はハッセルブラッドに通じるところがある。
さて、前回に書いた「メカの部分でちょっと変なところ」正解はシャッターダイヤル。赤で刻まれた高速側が1/60秒で終わり、そこから黒の低速側に移ると1/15秒に飛ぶ。では1/30秒はというと、この速度のみ180度逆側に置かれている。このシャッターはバルナックタイプの二軸式から、高/低速を同軸配置とした「一軸回転式」に改められているのだが、セット方式なども含めやはり発展途上の感は否めない。

▲photo02:
レリーズタイミングがつかみ難いカメラを慣れずに使うとこうなる、という失敗例。絞り込んだところで被写体の動きを待っていたのだが、コンマ数秒早く指に力を込めたためになんとも半端な写真になってしまった。僅かなタイムラグで「写真が写真にならない」のは昨今のコンデジと似ている(でもこっちの方が許せる気がする)。

▲photo03:
春先のみなとみらい・臨港パークで出逢った文学好きの高校生ふたり。彼女たちが大人になる頃、カメラは果たしてどんな風になっているのだろう。ウエストレベルファインダーを覗きながら、カメラボディを膝に押し付けて撮った1枚。

Trackback URL

------