Tea for Two
熱に浮かされた夜に、朦朧と浮かぶ窓辺。
”Reserved”の札が置かれた席は、いつまでも空きのまま。
閉店の刻が近づいても、二人は現れない。
古株のウェイターがときおり問われる。
あの席はいつ来ても予約済みだね、と。
彼は小首をかしげ、いつもきまった言葉で返す。
「私が勤めたころから、ずっとあのままなんです」
それならオーナーが訳を知ってるだろう、と訊かれ
彼は、薄らと笑みを浮かべて、こう答える。
「オーナーは変わりました。もう三度も」
怪訝な顔をする客に、わけ知り顔の老人が、こんな話を聞かせる。
「あの席は、まだ出逢っていない二人が予約しているんだ。
惹かれあっていても、見えない線が二人をけっして近づけない。
求めても、受け入れない。はじまりが終わりになることを怖れているから」
「人生によくあるすれ違いだって? そうかもしれない」
「でもいつかきっと、境界が消えてなくなる日がやってくる。
そうしたら、あの窓辺で、はじめての君に出逢おう。
そんな想いで待ち続けることは、誰にだってあるだろう」
老人はそう語り、三人分の伝票を手に席を立つ。
いつもの窓辺を振り返りもせずに。
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Special thanks to M.
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