ディストーション(4)

2009-05-11 | 東京レトロフォーカス別室

「空の重さ」Nikon FE2 / Mir-24N / Portra160NC / (C) keita NAKAYAMA

「空の重さ」Nikon FE2 / Mir-24N 35mmF2/ Centuria100 / (C) keita NAKAYAMA

では写真にとって歪曲とは、ほんとうに忌むべき対象なのか。完全にこれを取り去った無歪み画像こそが、ゆいいつ絶対の正解なのだろうか。アンチ・ディストーションを自認する僕も、この自問の答えはまだ見つけられずにいる。
というのは、ある種の写真では歪曲がプラスに作用することがあるからだ。といっても、魚眼レンズのように極端な歪曲をつかった画面効果のことではない。話は逸れるけど、日本の映画界で魚眼レンズの使い方がいちばん巧い監督は、間違いなく押井守さんである。実写ではなくアニメの方だけど、魚眼の歪曲を自然かつ微妙な心理描写に役立てている。これはちょっと真似できない。
で、ある種の写真とはどんなのかというと、画面にわずかな膨らみがあった方が自然に見えるもの。たとえば人物写真や街頭スナップなんかは、歪曲が気になる場面は少ないし、むしろ歪みが情感や力感の表現につながったりする。また風景写真などでも「多少の歪曲は画面に奥行きを与える」と、これはニコンの光学技術者である佐藤治夫さんもお書きになっていた。
なぜ画面の歪みが奥行きの表現に結びつくのか。ちょっと分かりにくいのだけど、たぶんこれはレンズのコントラスト再現に因る立体感などとはまったく別の問題で、言ってみれば錯視である。
それと似たような効果として、画面内に直線上のものを取り込んだ場合、あまりに歪みがないと却って存在感が強調される、ということがある。むしろ緩い膨らみがちょっぴりある、くらいの方が画面に馴染むというか、眼に優しく全体に埋没しやすい。この項の2回目に載せた写真などがそうだ。
膨らみ、つまり樽形は軽度なものならば、そこそこ気持ちよく使える。ではその逆の糸巻き形とか、両者を合わせた陣笠形はどうか。好悪は個人差があると思うが、こちらは歪みをポジティヴに使える場面が少ない。どうしても不自然なのだ。

そういうレンズを使って、画面に直線状のものを入れるときはどうするか。デジタル修正に頼れない場合、これはなるべく歪みが目立たない画面構成を考えるしかない。具体的には、画面の四辺と平行に近い角度で直線を配さないこと。特に長辺を走る直線は歪みが目立つ。
ズームレンズなら、歪曲が出ない焦点距離を使う手もあるけれど、これはズームの利便性を捨てることにもなりかねない。そンなちまちましたことで悩む前に、とっとと撮るべきか? いやいや、悩む人間は撮る前でも撮った後でも、どっちにしても女々しく悩むのである。

▲写真「空の重さ」:地平線の歪みをヒントに題を付けてみた。

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