曇りのトマト(2)
ミノルタALについては、別の連載で紹介したことがある。あの時は国産のレンズ一体型カメラをいろいろ試してみたのだが、正直、ALにはさほど強い印象を受けなかった。無難で主張のすくないデザインそのままに、技術的にも突出したところの無いカメラだから、まあ当然かもしれない。
といっても、1960年代の国産カメラ、特にライカ判のレンジファインダー機は、趣味性にはイマイチ欠けるが性能はどれも優秀。にもかかわらず実勢価格は気の毒なくらいに安い、というか、前に記事を書いた頃はいちおう値札が付いていたけど、今ではタダ同然だろう。
安いものには弱いので、調子に乗ってあれこれ買い込んだ(ぜんぶで二十台くらいか)のだが、ひととおり試しては興味のありそうな人に押し付けて、今はほとんど手元にない。ただコニカのカメラとこのALだけは、それぞれ一台ずつ残してある。コニカは国産機には珍しく主張があって、僕の性に合うから。ではミノルタは?
実は、手元にあるのは二台買ったうちの一台で、それは人に押し付けようにも、できない理由があったのだ。
趣味性という色眼鏡を外してみれば、ミノルタALはよく出来た実用カメラである。内蔵露出計(外光式のセレン露出計)はシャッタースピードと絞りに連動するため、レチナなどの非連動タイプよりもずっと使いやすい。また当時流行のLVシステムは、絞りとシャッタースピードの二つの環を同時に回す簡易方式。ロック機構付きと違って、個々の設定値の変更が素早く楽にできる。
シャッターユニットはシチズンMLT。レンズシャッターとしては異例の1/1000秒を持つ高級ユニットで、おなじ時代のフジカ35SEなどにも採用されていた。静粛なレンズシャッターでこの最高速は魅力だが、カタログスペックはほんとうに出ていたのだろうか。
さて、僕の手元に残ったALだけど、これはかなりの難あり品である。ファインダーがどんより曇って、二重像がヒジョーに薄く、ピント合わせが難しい。またレンズも薄らと曇っている。ボディそのものは綺麗だし露出計もシャッターも完調なので、たぶん前オーナーが保管場所を間違えたのだろう。
こういうカメラを引いてしまった場合、次に選べるカードは三つしかない。直すか、捨てるか、そのまま使うか。僕は迷わず最後の札を選んだ。薄曇りのレンズには、それなりの使い途があるのだな、これが。
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制作協力 脊山麻理子
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