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世界の1/3 (5) : メイキングセンス。by 中山慶太

世界の1/3 (5)

2009-06-24 | 視聴覚室

''Dencer on the Beach'' Nikon FE2 / Distagon 25mmF2.8 / Reala ACE / (C) keita NAKAYAMA

''Dencer on the Beach'' Nikon FE2 / Distagon 25mmF2.8 / Reala ACE / (C) keita NAKAYAMA

マリア・ベターニアのアルバム「マリア Maria」をはじめて聴いたときのことはよく覚えている。もう二十年も前の、あの日の天気まで。
記憶が鮮明なのは、それがはじめて買った彼女のCDだったからだ。それまではアナログ盤で聴いていた僕が、CDに「寝返った」のは、そっちの方が曲数が多い、という単純な理由だった。今でいうボーナストラックだけど、今と違うのはそれが輸入盤CDだけのオマケだったこと。このオマケの話は後で触れよう。
渋谷の宇田川町にあった輸入盤専門店を出て、路駐のクルマに乗り込み、友人との待ち合わせ場所に向かう車中で、封を切ったCDをオーディオのスロットに差し込む。音が出た瞬間、青山通りのどんよりと曇った空の向こうに、抜けるようなアフリカの青空が開けた。

冒頭を飾る曲は「揺れる大地〜オファ A Terra Tremeu / Ofá」のメドレーだ。どちらもベターニアの甥であるホタ・ヴェローゾとロベルト・メンデスの共作だが、わずか2分強の、しかもアカペラ(歌のみの無伴奏)で歌われるこの曲の調性と響きは、まさにアフリカそのもの。ジャケット写真とも呼応する見事なイメージだ。
それにしても、なぜブラジル音楽がアフリカ風味なのか。それは「マリア」の発売年にあたる1988年が、ブラジルにおける奴隷解放100周年にあたるから、というような経緯は、実は後で知った。ベターニアの音楽はそれ以前からアフリカのテイストを持つ曲がけっこう多く、それは彼女が生まれ育ったバイーア地方の音楽の特質でもある。でもそういうアフロ=ブラジルの音楽には適度なブレンド感があるもので、このメドレーほどの「そのものズバリ感」は未体験だった。
もうひとつの驚きは、ベターニアの声のずば抜けた深みと浸透力である。聴き慣れたはずの歌い手の声に、ここまでショックを受けたのもはじめてのことだ。

この声の深さと浸透力の差は、CDとアナログレコードの違い、などではもちろんなく、巫女が覚醒したとしか言い様がない。それは典型的なブラジル音楽でも発揮され、特に「ブラジルの女たち Mulheres Do Brasil」は絶品だ。友人のジョイスがベターニアのために書き下ろした小粋なサンバ。そのたった一本の生ギターと打楽器によるリズム隊を従えた彼女の歌声は、スルド(サンバでもっとも低い音を出す打楽器)の深い響きよりも、さらに低いところから湧き上がり、まるで大地の鼓動のようだ。冒頭のメドレーと合わせ、彼女のスタジオ作でここまで解き放たれた歌唱が聴けるものは、他にちょっと思い浮かばない。いや思い浮かばないといえば、これほどダイレクトな生命感に満ちあふれた音楽も他にないと思う。無人島になど、勿体なくて持って行けるわけがない。

「いったい何がマリアに起きたのか」待ち合わせた友人をクルマに乗せて、その日は夜中までずっと1枚のCDを聞き続けた。思えば、そんな経験もあの時だけである。

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▲photo「浜辺のダンサー」:やっぱし足跡だらけの砂浜が好きだ。

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